クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

「シロウト判断」による裁き

徳岡孝夫
執筆者:徳岡孝夫 2010年10月15日
カテゴリ: 政治
エリア: 日本

 恥をさらすようだが…と言うほどの恥ではないが、私はこの世に検察審査会というものが存在するのを知らなかった。いま知らないのではない。50年以上前、四国・高松で駆け出し記者をしていたとき、知らなかった。  知らなくて当たり前である。私は文学部英文科に学び、ひたすらシェリー、キーツの詩に酔い、チャールズ・ラムの文章に感動していた。卒論に取り掛かったところで、新聞社が「すぐ来て働け」と言って、見も知らぬ四国の町の支局を指したのである。六法全書みたいな駄文のカタマリは、手に取るのさえ汚らわしかった。  起訴、判決の次は控訴で最後は上告と呼ぶことさえ正確には知らなかった。辛抱強く教えてくれたのは、他社の記者と地検の次席検事だった。  2年半の支局勤務中に検察審査会が出てきて「その不起訴は不当だ」とイチャモン付けたのは、1度きりだった。それほど珍しい、従って地方版の大ニュースであった。どんな事件だったかは忘れたが、検察は鎧袖(がいしゅう)一触、審査会の議決を撥ね除け、不起訴を通した。その一部始終を、私は次席検事に解説されながら書いた。  八っつあん熊さんの混じった検察審査会では、検察の決定に横槍を入れるのは無理だ、入れても跳ね返されるだけだと私は感じた。以後それが私の「常識」になった。私の中の「神話」だと言える。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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