堕ちゆく世界の迷走 (2)

熾烈さを増す「世界通貨戦争」

執筆者:青柳尚志 2010年10月18日
エリア: アジア
すべてを日銀のせいにするのは酷だが……(G7終了後の白川方明日銀総裁=左=と野田佳彦財務相)(c)時事
すべてを日銀のせいにするのは酷だが……(G7終了後の白川方明日銀総裁=左=と野田佳彦財務相)(c)時事

 かつてレーニンは言った。「資本主義を破壊する最上の方法は、通貨を堕落させることである」。泉下のレーニンもさぞや溜飲を下げているであろう。通貨の堕落競争が熾烈さを増している。しかも世界史の皮肉は全てを逆転させる。興味深いことに、共産党が支配する中国が、資本主義の総本山である米国と角突き合わせて、堕落競争に邁進しているのだ。

焦点は米中間選挙後の金融緩和

 世界のマネーが11月2日と3日に注目している。2日は米国の中間選挙の投開票日であり、2―3日には米連邦準備制度理事会(FRB)が連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。オバマ政権の与党である民主党の苦戦が予想されるなか、市場はFOMCが思い切った金融緩和を決めることを期待している。
 市場の金融政策頼みが募るのはいうまでもない。中間選挙後に米議会のねじれが生じるようだと、財政面からの景気対策が覚束なくなるからだ。共和党はオバマ大統領が謳う3500億ドルの追加景気刺激策が財政赤字を膨らませると批判している。12月で期限切れとなるブッシュ減税についても、富裕層向けの減税打ち切りに反発している。
 失業率が9%台の半ばと高止まりし、景気下支えが必要なことでは一致していても、どこに焦点を絞るべきかで、民主党と共和党はまったくかみ合わない。議論が暗礁に乗り上げたままで、景気がずるずる失速するという、最悪の事態も否定しきれない。
 そうしたリスクを承知しているからこそ、バーナンキ議長率いるFRBは追加緩和に本腰を入れる。バーナンキ議長自身、米景気の「異例な不確かさ(unusually uncertain)」といったグリーンスパン前議長ばりの決めゼリフで、本格緩和の用意を見せる。9月21日のFOMCでは金融政策こそ据え置いたものの、物価の安定と雇用の最大化というFRBの「使命(mandate)」に3度も言及した。使命達成のためには何でもやるというシグナルをマーケットに送ったのだ。
 コーン副議長が退いた後、空席になっていたFRB副議長に、イエレン・サンフランシスコ連銀総裁が就任する人事が議会によって承認されたことも、少なからぬ影響を及ぼしている。情報の非対称性の理論でノーベル経済学賞を受賞したアカロフ・カリフォルニア大学バークレイ校教授を夫に持つイエレン氏はエコノミストとしても高名だが、その主張はバーナンキ議長に近い。就任直後の10月11日、全米企業エコノミスト協会の講演で「金融緩和がバブルを生む」危険に言及したが、基本的にはデフレのリスクを重視している。人事面からもFRBは緩和方向にカジを切りやすくなっている。

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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