グローバル・ビジネスの新地政学
グローバル・ビジネスの新地政学(2)

アジアにみるノーベル賞の地政学

執筆者:森山伸五 2010年10月27日
カテゴリ: 国際 経済・ビジネス
ノーベル賞を受賞した鈴木章・北海道大学名誉教授(左)と根岸英一・米パデュー大学特別教授 (c)時事
ノーベル賞を受賞した鈴木章・北海道大学名誉教授(左)と根岸英一・米パデュー大学特別教授 (c)時事

 今年はノーベル化学賞で日本人受賞者が2人出たことで、自信喪失気味の日本にやや元気が出た。受賞の対象となった「クロスカップリング」は、電子デバイスや高機能素材の製造などに幅広く利用されており、日本の産業界の競争力、イノベーション能力がサイエンスに支えられていることを図らずも示した。  そこで、今や世界の製造業の最大最強の集積地となったアジアで、どの国がどのようにノーベル賞受賞者を生んでいるかをみると興味深い構図が浮かび上がる。受賞者数の国別カウントは、国籍変更や国家の消滅、統合などがあり、実は簡単ではない。ただ、ここでは厳格さを省いて考えてみよう。  まず、科学系に限らず、文学賞、平和賞なども含む全体でみれば、もちろん日本が18人と圧倒的に多い。2位はインドで5人(英領インド出身で、米国籍のスブラマニアン・チャンドラセカール含む)が輩出している。特筆すべきは、アジア人最初のノーベル賞受賞者となった文学賞のタゴールを出したこと。1913年のことだ。さらに1930年には科学系でもアジア人の第1号としてチャンドラセカール・ラマンが物理学賞を受賞している。  台湾は化学賞受賞(1986年)の李遠哲、パキスタンは物理学賞受賞(1979年)のアブドゥッサラームがいる。韓国、ミャンマーは平和賞の金大中(2000年)、アウン・サン・スー・チー(1991年)がいる。  さて、中国人受賞者は微妙な議論となる。1957年にノーベル物理学賞を受賞した楊振寧、李政道の2人はそれぞれ安徽省、江蘇省の出身だが、中華人民共和国が成立する1949年より前の中華民国時代に米国に渡り、米国で主に教育を受け、研究活動したことから、現在の中国の受賞者とは言い難い。多くの中国人も楊、李両氏を中国のノーベル賞受賞者とは考えていない。中国系アメリカ人であれば現在のエネルギー長官のスティーブン・チューもノーベル物理学賞受賞者だ。  この5、6年、中国国内では「なぜ中国からノーベル賞受賞者が出ないのか」という議論がわき起こっていた。中国にとって初のノーベル賞受賞者が今年の平和賞を授与された劉暁波だったのは皮肉だが、多くの学者が指摘するのは、中国政府の科学研究に対する姿勢だ。潤沢な予算は割り当てるものの、研究成果を性急に求める傾向が強い。中国ではこれをしばしば「急功近利(功を焦り、利益をすぐに求める)」と言う。研究者の多くは成果主義のプレッシャーに押しつぶされ、息の長い研究に挑まなくなるという。研究を統括する管理職も手近な実績をあげる小粒の研究を奨励する傾向が強い。

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