特別会計仕分けは何をやりたかったのか??

執筆者:原英史 2010年10月31日
タグ: 日本
エリア: アジア

 

特別会計仕分け(10月27日~30日)が終了。率直にいって、もう少し期待していたのだが、何をやりたいのかさっぱり分からないまま終わった印象だ。
 
包括的なコメントは別の機会にしたいが、ここでは2つ指摘しておく。
 
1、まず「政府のやりたい政策」を決めてから、仕分けをやらないと意味がない。
 
典型的だったのが「ジョブカードの廃止」。
ジョブカードについては、今年6月3日の政府「雇用戦略対話」で、総理大臣以下関係閣僚(当時はまだ鳩山内閣だが、菅副総理、仙谷国家戦略担当大臣も出席)、古賀会長以下連合の代表者、経済団体代表などの参加の下、「ジョブカード取得者を現在の22.4万人から2020年までに300万人に」との資料が示され、政労使で合意。
その後、6月18日「新経済成長戦略」にも数値目標が盛り込まれていた。
 
これが仕分けで簡単にひっくり返ってしまうのでは、政労使のトップを集めた「雇用戦略対話」や、全閣僚の集まった「閣議」は、一体何だったのかという話だ。
 
もし政府として「ジョブカード拡大を進める」という方針を決めていたなら、今回の仕分けで、「ジョブカードの必要性」を議題にすること自体がムダ。こんな議論に時間を割くべきでなかった。
 
あるいは、「ジョブカードの話は、官僚がこっそりペーパーに入れていた話。閣議ではそんな細かいことまで確認していなかった」と言って、「廃止」の方向に舵を切るのかもしれないが、もしそうなら、閣議や閣僚レベルでの議論のあり方を抜本的に見直した方がよい。
いい加減な「閣議決定」をして、たびたび方向転換されたのでは、迷惑するのは国民だ。
 
2、場当たりではなく、明確な枠組みを決めて行政改革を進めるべき。
 
「貿易再保険特会の廃止」が成果の一つとされているが、実際には「独立行政法人・日本貿易保険に機能統合」という結論だ。
これは、これまでの10年ほどの経緯から考えると、振り出しに戻ったような話だ。
 
貿易保険は、かつては通商産業省が直接運営。政府で引き受けるしかない特殊なリスクに対応するのが本来の役目だが、実際上は、民間保険会社と競合するような事業分野にもかなり手を出し、これらが混然としていた。
そこで、民にできることは民に委ねる観点から、まず2001年、どうしても国で担う必要のある再保険特会の部分を除いて、独立行政法人の形で切り出した。
さらに、次のステップとして、2007年12月の「独立行政法人整理合理化計画」では「日本貿易保険の株式会社化(特殊会社化)」を決めていた。
 
ところが、民主党政権になって、整理合理化計画は凍結。株式会社化はストップした上で、今度は、政府の仕事と独立行政法人の仕事を一体化するという。
これは、事実上は、かつての「通商産業省貿易保険課」を独法の形で復活するようなもので、元に戻してしまうに近い印象だ。
 
しかも、民主党はそもそも、かつてのマニフェスト2009では「独立行政法人は全廃」といっていたはずだ。
ところが、政権交代後は新たな独法を新設するなど混乱し、今春の独法仕分けを経ても、独立行政法人という仕組みをどうするのか、方向性は示されていないまま。
今回は、貿易保険について、国の特会を吸収して、独法(日本貿易保険)を拡大するという。
 
これでは、その場その場の成果らしきもの(「特会の廃止!」など)を出すために、場当たり的な対応をしていると思われても仕方ないのでないか。
各論の仕分けに入る前に、「独立行政法人」や「特別会計」といった制度をどう考え、どういう方向にもっていこうと考えるのか、基本的な命題に答えを出すべきだった。
 
原 英史
カテゴリ: 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
原英史(はらえいじ) 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『国家の怠慢』(新潮新書)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top