習近平勝利にみる「毛王朝」の血脈(下)

執筆者:藤田洋毅 2010年11月11日
カテゴリ: 国際
エリア: 中国・台湾
団派と太子党の権力闘争は激しさを増し……(胡錦濤総書記=左=と習近平国家副主席) (c)AFP=時事
団派と太子党の権力闘争は激しさを増し……(胡錦濤総書記=左=と習近平国家副主席) (c)AFP=時事

「かねて近平と面識のあった曾は、遠華公司事件の処理を近平に任せた」――数年前、国務院を退いた老幹部は「もはや過去の歴史だから」と前置きし、打ち明けた。1999年春に表沙汰になり、脱税額は少なくとも800億元(約1兆円)とされる、建国以来最大の密輸事件の舞台は福建省アモイ市。最終的に同市副書記、税関長や国務院公安部の副部長(次官)の死刑判決で決着したが、一時は、96年まで同省書記を務め、江の腹心として北京市長に栄転していた賈慶林や同夫人の密接な関与も囁かれた。江にも火の粉が降りかかるのではないかと、中南海は事件の話題で持ちきりになったほど、底なしの様相を呈していた。  主犯、頼昌星・同公司総裁は「桁外れの贈り物」すなわち賄賂を贈り有力者に食い込んだ。赤い外観から「紅楼」と呼ばれた7階建ての本社上層階は「女性服務員付の超高級ホテルのスイートルーム」と化し、高官らを接待漬けにしていた。「税関の取締船3隻が海上で密輸船団を摘発しようとしたら、付近を遊弋していた海軍の軍艦から発砲され1隻は沈没、複数の死傷者を出した。軍艦がアルバイトで密輸船団を護送していた」「調査のため公司の倉庫に乗り込んだ税関職員は、自動小銃で威嚇射撃された。数丁の拳銃しか持っていなかった職員は慌てて退散した」「内偵していた、少なくとも2人の職員が港に浮かんだ」……にわかには信じがたい事実が、老幹部の口から漏れる。だが、「紅楼」最上階の総裁室の壁にずらりと掲げられた指導者と頼が一緒に収まった写真や指導者の揮毫を「この目で見た」という老幹部の証言は具体的だ。「劉華清、遅浩田、それから、写真の大きさはやや小ぶりになり賈慶林や姫勝徳……」。劉華清は1992-97年に政治局常務委員・党中央軍事委副主席を務めた制服組トップ、遅浩田も97-2002年に政治局員、党中央軍事委副主席・国防相を務めた軍首脳である。  摘発が始まる数カ月以上も前に省副書記の1人だった習近平を、事件処理の地元責任者に据えた曾慶紅の狙いは2つ。劉・遅といった超大物や賈ら江につながる幹部を「命がけで守る」とともに、習自身にもかかっていた嫌疑を晴らすこと。習は見事に曾の期待に応え、その手柄を勲章に省ナンバー2の省長代行に出世した。軍内における処分は、姫鵬飛・元副首相の息子で総参謀部第二部部長だった姫勝徳・少将の執行猶予付き死刑(後に無期懲役に減刑)にとどめたのだ。  2002年秋、習を経済大省である浙江省書記へ回したのが曾慶紅であるのは、言うまでもない。福建省と同様、経済発展を先取りした沿海部であり、特に私営企業が大きな比重を占める浙江省は、姉弟に旺盛な私営企業主を抱える習近平には、うってつけだった。

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