雇用・能力開発機構の「廃止」は「実質温存」?

執筆者:原英史 2010年11月15日
カテゴリ: 政治
エリア: アジア

 「(独)雇用・能力開発機構の廃止法案」が、衆議院厚生労働委員会で12日に可決(民主・自民・公明が賛成、社民・共産・みんなが反対)。15日の本会議で衆議院を通過する見通しだ。

自公が賛成しているので、おそらく参議院でもすんなり可決されることになろう。
 
雇用・能力開発機構は、前身は「特殊法人・雇用促進事業団」。当時から、全国各地でのリゾート施設建設、特にスパウザ小田原などが問題になり、ムダ遣いの象徴とされた。
1999年に「独立行政法人・雇用・能力開発機構」に改組されたが、ムダ遣いは改まらず、その後も「私のしごと館」などが問題になった。
 
結局、問題の根源は、雇用保険料の余り金を使って次々にハコモノを作ってしまうという体質そのもの。
そこで、「解体・廃止すべき」との議論が福田康夫内閣の頃から出てきた。
 
それ以降の経緯を簡単に振り返ると、
・福田内閣で、「廃止」に向けて走り出し、いったんは「法人は廃止、組織は解体、機能は整理」というところまでたどり着くのだが、
・その後の麻生内閣で逆行。「他の独立行政法人(高齢・障害者雇用支援機構)と合併して、廃止したことにする」という閣議決定(2008年12月)がなされた。これは、役所でありがちな解決策だが、看板を掛け替えるだけで「実質温存」ということだ。
・政権交代後は、「このまま事業を移管したのでは、ムダが温存される」と問題視し、「事業仕分け第一弾」(2009年11月)でも取り上げられて、厳しい指摘がなされた。
・ところが、その後の法案検討過程では、再び役所路線に戻ったのか、結局、麻生内閣の閣議決定をそのまま踏襲した法案が作成され、先月10月、国会提出されるに至ったのだ。
 
政府の法案説明資料でも堂々と書かれているとおり(自公政権のやったことは何でも否定したがる民主党政権としては異例なことに)、「2008年12月の閣議決定を踏まえ」作成された内容。自公が賛成に回るのは当然だろう。
 
12日の厚生労働委員会の審議を見ると、民主・自民・公明各党は、「雇用の状況がこれだけ厳しい中で、機構の機能をいささかも損なってはならない」という点を強調した。
本当のところ、こんな状況下、決まってしまっているから仕方ないので「形式的に廃止」だけはするが、「実質的に廃止」するつもりなど更々ない(つまり「実質的に温存」)、ということなのだろう。
 
しかし、「有効な雇用対策を講じること」は、「雇用・能力開発機構の実質温存」とイコールではないはず。これらをごっちゃにするのはおかしい。
機構を介して施策をうつことで多くのムダが生ずるとすれば、むしろ、雇用対策の有効性を減じているのだ。
 
また、雇用・能力開発機構が保有する訓練施設(全国61か所のポリテクセンターなど)は、主として、ものづくり技術の訓練のためのものだ。
これらは、菅内閣が新成長戦略で唱える「介護・健康・環境など新たな分野での雇用創造」には役立たない(現に、こうした新分野では、これまでも機構は中抜き機関となって、他法人に訓練を委託している)。
 
この際、機構を思い切って整理・解体し、より適切な政策実施体制を組み立て直した方が、より実効ある雇用政策につながったはずだ。
 
結局、役所にうまく丸めこまれ、「実質温存」になってしまった、ということではないのか?
 
(原 英史)
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執筆者プロフィール
原英史(はらえいじ) 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『国家の怠慢』(新潮新書)など。
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