80時間世界一周 (71)

スー・チーさんは解放されたが

執筆者:竹田いさみ 2010年11月18日
エリア: アジア

 ミャンマー・ヤンゴン市内の裏通りを歩いてみると、半世紀ほどタイムスリップしたような光景に出くわす。イギリス植民地時代に建てられた歴史ある佇まい。しかし、建物は老朽化がすすみ、道路は雨にぬかるむ。資本を投入してリニューアルしたら、外国人観光客を呼び込む「売り」になるのにと、思わずため息が出てしまう。
 日没になると、路地裏は暗闇に包まれて行き交う人々の顔も判別できない。慢性的な電力不足のため、街路灯に灯がともることがないからだ。夜のとばりが下りると、日本ではアウトドア・レジャーで使われる灯油ランプが大活躍だ。このランプで調理も行なうため、一石二鳥のライフラインだ。資金的に余裕があれば、自家発電で電気を賄うこともできるが、庶民には高嶺の花である。
 郊外の農村地帯はどうであろうか。ミャンマーの“へそ”ともいえる中部マンダレーの農村を覗いてみたことがある。上下水道はもちろん、経済インフラと呼べるようなものが何一つないのに驚く。日の出とともに起床し、日没で日々の活動を終えるという極めて原始的な生活の営みが、いまだに繰り広げられているのだ。グローバルな経済競争から完全に取り残された国、それが「鎖国中」のミャンマーだ。

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執筆者プロフィール
竹田いさみ(たけだいさみ) 獨協大学外国語学部教授。1952年生れ。上智大学大学院国際関係論専攻修了。シドニー大学・ロンドン大学留学。Ph.D.(国際政治史)取得。著書に『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房、アジア・太平洋賞受賞)、『物語 オーストラリアの歴史』(中公新書)、『国際テロネットワーク』(講談社現代新書)、『世界史をつくった海賊』(ちくま新書)、『世界を動かす海賊』(ちくま新書)など。
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