人民元預金は得か損か

野嶋剛
執筆者:野嶋剛 2010年11月23日

 最近、某外資系銀行の日本支店が開催した人民元預金のセミナーに参加しました。リスクが高い外貨投資は好きではないのですが、むしろ、どんな人たちが参加しているのか、どんな風に日本人が人民元を買うことができるのかに興味がわき、聞きに出かけてみました。

 平日の夜、都心の支店に集まった人たちは30~40代が中心。高そうなスーツを着た男性が多く、女性は少なめでした。主催者によると「募集の何倍もの応募があり、立ち見でもいいから、という人もいて、反響の大きさに驚いた」そうです。現在、日本人で外貨投資の関心先は「1に米ドル、2、ユーロや豪ドル、3が人民元」とか。日本円だけでなく、米ドルやユーロまで低金利になり、将来切り上げで為替差益が期待できる人民元に対し、自然と注目が集まっているためです。
 
 以前、中国は海外での人民元流通をほとんど認めておらず、日本で人民元口座を開くことは不可能でした。しかし、今年の夏ごろから香港のオフショア市場で人民元取引が一部開放されたので、香港で人民元を調達したこの銀行は人民元を日本にも回せるようになったそうです。
ただ、セミナーの内容は、私を含め、参加者にはやや肩すかしでした。
 銀行の先行き見通しが「短期的に人民元の大幅な切り上げはない」だったからです。いくら米国の圧力はあっても、中国当局は、日本のプラザ合意による急激な円高とその後のバブルの崩壊を反省材料として、①主体性②制御可能性③漸進性の3原則を基本姿勢としています。要するに、外国のいいなりにはならず、自分たちの計算と判断と利益に基づいて、ゆっくりと人民元を上昇させていく、ということです。そのため、数年のうちに一気に何10%の大幅な利益が出るような切り上げは期待できない、ということでした。
 金利についても、中国本土(オンショア)は現在定期預金で利2%前後で悪くはありませんが、香港のオフショア調達だと金利は低くて1%未満なので、金利のうまみもあまりありません。また、日本で人民元を買う場合には一度の取引で1%以上の割高な手数料がかかることも分かりました。
 ということで、5年や10年先を見越して余剰資金を預けておくぐらいならいいですが、さっさと儲かる「うまい話」を期待していた参加者の表情は今ひとつ。現状では、外貨資産の一部に人民元を組み込む、という判断が精一杯でしょう。
 ただ、私にとっては、面白い情報も手に入りました。
 銀行の分析によると、中国は今後、人民元の対外貿易決済を徐々に増やしていき、現在、中国の対外貿易の半分以上を占める「新興国」との取引を次第に人民元決済にしていく。その場合、総額2兆ドルに達する貿易決済が人民元となる計算で、それだけで国際通貨として米ドル、ユーロに次いで第三の国際通貨に人民元が躍り出るそうです。
 そういえば最近、日経新聞のインタビューで世界銀行のゼーリック総裁が米、ユーロ、ポンド、円、人民元という五大通貨による新通貨体制の創設を呼びかけて話題になりました。中国が人民元をゆっくりと国際通貨に育て上げる戦略であるのは間違いなく、その意味で、切り上げをしないと言っているわけではありません。内需拡大や貿易構造の正常化には人民元の上昇は不可欠です。人民元のスローな切り上げと国際通貨化は中国にとって通貨政策の両輪なのでしょう。その長期戦略の一環として、香港などで人民元の実験的な緩和措置が現実の動きとして表面化しているという銀行のアナリストの指摘は、今後の人民元の動向を観察するうえで役に立つものでした。
 
 ちなみに、人民元を中国で運用する裏技が一つだけあります。中国の知人の口座を借りて、日本から送金することです。日本の中国銀行や中国工商銀行の支店から、円を人民元に替えてこの口座に送金するのですが、現在は円高なので運用としてはうまみがあります。金利も2.2%ぐらいつきます。現状では多額の人民元を円やドルに替えて中国から持ち出すのは難しいのですが、20年もすれば人民元も国際通貨になっているでしょうから、長期預金のつもりならいいでしょうね。でもこの方法には知人に持ち逃げされてしまうリスクがあるので、信頼できる相手を選ぶことをお勧めします。    (野嶋剛)                
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執筆者プロフィール
野嶋剛
野嶋剛 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。
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