「労働者天国」からの決別なるか――印首相、労働法の見直し示唆

執筆者:山田剛 2010年12月9日
カテゴリ: 国際 経済・ビジネス

 

 インドのマンモハン・シン首相は11月下旬、政官労使の主要団体が参加した会合で「すべての労働法が効果を上げているわけではない。硬直的な労働法が雇用の拡大を阻害している」と述べ、外資系企業をはじめ産業界から批判の多い現行労働諸法の見直しを強く示唆した。
 2004年の政権交代以来、被雇用者に手厚い労働法の改正は、外資への市場開放や民営化などと並ぶ経済改革の目玉として期待されていた。だが、サービスセクターにおける外資上限の引き上げは思うように進まず、ようやく今秋から小売量販店への外資導入をめぐる本格的な検討がスタートしたばかり。国営企業の民営化は、地方政党や労組などの激しい反発を考慮し、「民営化」と言う言葉を封印し、政府保有株を5-10%放出していくことで一応の決着を見た。
こうしたなかで、もし労働法に手をつけることが出来れば画期的だが、当然多くの労組などを敵に回すことになり政治的には極めて危険だ。
インドには50以上の労働諸法があるが、制定以来60年以上経過したものもあり、現状に合わなくなっているものも少なくない。これらの最大の問題点は、「従業員100人以上の事業所では、解雇に当たって州政府の許可が必要となる」など、社会主義的経済運営の残滓とも言える労働者寄りの規定がいくつも生き残っていることだ。
このような硬直的な労働法の存在によって、企業の多くは正規雇用に二の足を踏み、契約労働者としての採用が恒常化しているといわれている。この結果、技術移転やスキルの定着が進まず、中・長期的には労働者全体の利益とならない、というのが「改正派」の言い分だ。
実際、インドでは毎年数千人規模を採用するIT(情報技術)産業や、電気通信産業などを除くと、いわゆる大企業における雇用は思ったほど増えていない。その一方で、労働雇用省の調査によると、2006年度から09年度にかけて、非正規の契約労働者の数は約100万人も増加している。
かつてなく政権基盤が安定している国民会議派主導の現与党連合だが、11月投開票の北部ビハール州議会選では大敗。中央与党と言えども地方選ではまったく予断を許さない状況に変わりはない。有権者の動向を見極めつつ長年の「労働者天国」から決別を模索することになりそうだが、そう簡単に行かないだろうことは容易に想像できる。      (山田 剛)
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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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