饗宴外交の舞台裏
饗宴外交の舞台裏(25)

在京大使が一番いいワインを出す国

西川恵
執筆者:西川恵 2000年1月号
カテゴリ: 国際 文化・歴史

 少し前、ある駐日大使と食事をしていて、各国大使公邸の饗宴に話が及んだ。「どこが一番いいワインを出すと思いますか」と聞かれたので、「当然フランスでしょう」と言うと、「イエメンです。外交団でも評判ですよ」と意外な答えが返ってきた。最近そのイエメンのアブドラハマーン・モハメッド・アル・ホーシー大使公邸の晩餐会に招かれた。 公邸の玄関に迎えてくれたホーシー大使は、挨拶を終えると「赤ワイン、それとも白ワインがいいですか」と聞いてきた。ふつうは給仕が食前酒を運んでくるところである。大使は私をサロンに先導し、「これはいかがでしょう」と、テーブルの上の抜栓したばかりのダブルマグナム(三リットル)のボトルから赤ワインを注いでくれた。 ラベルを一瞥すると、ボルドー地方メドック地区の第二級、シャトー・コス・デストゥルネルの82年。濃厚でタンニンが強い。ふつうはジビエなどのどっしりした肉料理と合わせるワインである。先客でいた顔見知りのシンガポールの周大思大使夫妻に「食前酒にこのワインを飲むのは初めてです」と言うと、「まだまだ。ここでは序の口です」と笑った。 この日は外務省儀典長、経済企画庁審議官らのほか、シンガポール、エクアドル、パラグアイ、チリ、ボリビア、ニカラグア各大使夫妻の十八人と、全体的に中南米が中心だった。奥さんが帰国しているホーシー大使は、それを埋めて余りある名ホストぶり。招待者を先客に引き合わせ、ワインを注ぎ、会話を引き立て、「今度はこれを飲んでみて下さい」とまだ相当量残っているのに、新しいボトルを抜く。

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執筆者プロフィール
西川恵
西川恵 毎日新聞客員編集委員。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、論説委員を経て、今年3月まで専門編集委員。著書に『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、本誌連載から生れた『ワインと外交』(新潮新書)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。本誌連載に加筆した最新刊『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)が発売中。
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