【フォーサイトノンフィクション】 ブラック・ニッポン(下)

出井康博
執筆者:出井康博 2000年4月号
カテゴリ: 国際 社会
エリア: 北米 日本

日米戦争前夜、アメリカの黒人を味方に付けようとした日本の秘密工作があった。その先駆けとなった男、中根中。摘発の網をかいくぐり暗躍していた彼が逮捕された頃、ニューヨークでは「第二の男」疋田保一が活発な工作活動を行なっていた……。 一九三〇年代、米国黒人社会で「東洋から来た神」と崇められた日本人、中根中。反白人団体を組織し黒人を暴動へと導こうとした彼は、やがて日本へと強制送還された。その中根がデトロイトに舞い戻っていると米連邦捜査局(FBI)が知るのは、強制送還から五年後の三九年(昭和十四年)のこと。妻・パールからの密告がきっかけだった。 一九三四年(昭和九年)八月、中根は日本からカナダに入国した後、国境を挟んでデトロイトにも近いトロントに落ち着いた。それから四年余り、パールを通して自らが設立した黒人結社「ディベロップメント・オブ・アワー・オウン(我々自身の発展)」を操縦し続けた。そのパールが、なぜ中根を裏切ったのか。それは一九三八年(昭和十三年)九月、キャッシュ・ベイツら組織の幹部数名が、中根のもとを訪れたのが発端だった。 古参幹部との面会で、中根は意外な事実を知らされる。パールから「デトロイトで七万一千人」と聞いていた組織の会員数が、実際には二千人弱まで落ち込んでいたのである。しかも組織が急速に弱体化した原因は、パールの生活ぶりにあるという。

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執筆者プロフィール
出井康博
出井康博 1965年岡山県生れ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『THE NIKKEI WEEKLY』記者を経てフリージャーナリストに。月刊誌、週刊誌などで旺盛な執筆活動を行なう。主著に、政界の一大勢力となったグループの本質に迫った『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『年金夫婦の海外移住』(小学館)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)、本誌連載に大幅加筆した『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『民主党代議士の作られ方』(新潮新書)がある。最新刊は『襤褸(らんる)の旗 松下政経塾の研究』(飛鳥新社)。
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