クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

母親の愛だけでは防げない

徳岡孝夫
執筆者:徳岡孝夫 2000年6月号
カテゴリ: 文化・歴史

 浮世離れした話だが、視力の弱い私はほとんどテレビを見ない。夜の十時のニュース番組が、戦争だか合戦だかだそうだが、その時間は書斎に入って、書くか読むかしている。世間との接点は新聞と雑誌、視聴覚はもっぱらラジオに頼っている。プロ野球、ゴルフ、サッカーその他にもあまり興味がない。 だから又聞きで言うが、近頃のテレビのドラマは凄惨な場面を見せる、輸入物など正視に堪えないのが多いという。刺戟が強くなければ視聴率を稼げず、CMがとれないから、まあ当然だろう。 世間にはテレビを見過ぎた結果、画面に出る電子の影と現実の境界がボヤケてしまった人がいるらしい。有珠山の噴火でテレビをつけたら、洞爺湖の対岸の人が「テレビで見てると噴火したので、驚いて外に出ると、テレビとそっくりに噴火していた」と語った。テレビは現実に先行し始めている。 一方で、子供の体格は、ますます良くなりつつある。電車の中で、私(一七一センチ)と同じ背丈の若い女は、珍しくなくなった。体格が向上すると力も増す。十七歳の少年は、弱冠ながらもはや非力ではない。 十七歳の少年が、高速バスを乗っ取って残虐な殺人をした。また人殺しを体験してみたかったと主婦を刺殺した。もっと年下の子が五千万円以上を恐喝した。栃木県のリンチ殺人事件は、ここに要約して書くのさえおぞましい冷酷無惨な犯行で、主犯の十九歳少年には無期判決が出た。三年前の神戸・須磨区、少年A(当時十四歳)による虐殺は、まだ記憶に新しい。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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