インドの過激な「ヒンドゥー・ナショナリズム」

執筆者:立山良司 2000年7月号
カテゴリ: 国際 文化・歴史

 インドで最近、キリスト教聖職者が殺害されたり教会が襲撃される事件が続いている。六月初めにもローマ・カトリックの司祭が何者かに撲殺され、二日後には四つの教会で爆弾が爆発した。バジパイ首相は「すべての宗教の共存というインド古来からの原則に反する」と一連の事件を非難するとともに、「徹底的な捜査」を命じた。だが、事件の背景にあるものこそ、バジパイ首相率いるインド人民党(BJP)が支持基盤の拡大に利用してきた過激なヒンドゥー・ナショナリズムと、その延長線上にある宗教対立だ。 インドでの宗教対立が極限にまでいった事件が、一九九二年のアヨーディヤでのモスク(イスラム教寺院)打ち壊しだ。アヨーディヤのモスクは十六世紀に建設されたが、ヒンドゥー教徒の間には、モスクが建てられた場所はインド古代叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公ラーマ神の生誕地だとの伝承があった。この伝承を背景に「モスクを破壊し、ラーマの聖地を救え」という戦闘的な運動が八〇年代に急速に強まり、ついに九二年十二月、「ラーマの解放」を叫ぶ数万の群集がモスクを打ち壊してしまったのだ。 憲法で規定されているように、インドの建国の理念は「世俗主義」であり、宗教と政治の分離を原則としている。その一方、ヒンドゥー教の教えや伝承等に基づき「母なるインド」への愛着を呼びかけるヒンドゥー・ナショナリズムが、インド独立運動において大きな役割を果したことは否定できない。

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