インタルード 岡崎久彦『隣の国で考えたこと』

執筆者:船橋洋一 2000年10月号
カテゴリ: 文化・歴史 書評

 岡崎久彦がソウルの駐韓日本大使館に参事官として赴任したのは一九七三年十月だった。 東京のホテル・グランドパレスで韓国野党リーダーの金大中が誘拐されたのがその年の八月、日韓両国が激高し、手に負えなくなっている時だった。「そもそもボクが韓国へ行ったのは亡命したんですよ。ワシントンで牛場さんと二人で日中正常化に反対したら、牛場さん首になっちゃった」 岡崎一流のちょっと茶目っ気のあるドラマ性を刷り込んだ言い回しである。「牛場さん」は、牛場信彦駐米大使である。岡崎はそれでも足りないと思ったか、こう付け加えた。「あのころの東京の雰囲気は、台湾を切ったから今度は韓国だ。岸・佐藤以来の親台、親韓の姿勢を正す。親台派、親韓派というのは保守反動右翼なんですよ。だから、それを、まず日中国交正常化で親台派を一掃したから、今度は親韓派を一掃しよう、そういう勢い。金大中を拉致したでしょう。あれ、主権侵害というわけ。だから、征韓論よ。それで、国交断絶もやむを得ない。外務省の責任者が言った時代、ホントよ」 この年の暑い夏はとうに過ぎていたが、反日感情の余熱はなお引かなかった。 翌夏。もっと衝撃的な事件が起こった。文世光事件である。在日韓国人の文世光が朴正熙大統領を狙撃した。弾は逸れて夫人の陸英修に命中した。

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