多数派キン族が主導するベトナムの抱える民族問題

執筆者:浅井信雄 2001年5月号
カテゴリ: 国際 文化・歴史

 ベトナムで少数民族が再び政治問題化している。今年二月に中部高地の少数民族が「土地をキン(京)族に奪われた」と大規模な抗議行動に訴えたのだ。キン族が主導する共産国家ベトナムでこの種の土地紛争は珍しく、政府に特設された少数民族・高地委員会が厳しく批判された。その後、四月には共産党の新書記長に少数民族タイ族系のノン・ドク・マインが就任している。 まずキン族とは何か。中国との国境地帯に近い山地には雨水の浸食でできた石灰洞窟が多いが、そこで確認された石器文化はオーストラロイド・ネグリート系の先住民によるものだと推定されている。彼らはBC三世紀に中国南部から南下してきたキン族と混血するが、BC二世紀には中国から切り離された独立王国を形成し始める。 しかし、BC一一一年からAD九三九年の間、ベトナムは中国系諸王朝の支配を受け、行政機構から漢字文化や儒教思想まで中国への同化を強いられた。今日でもベトナムが「越南」、皇帝バオダイが「保大」とも表記されるなど、多くの人名や地名に漢字名を当てることができる。中国、朝鮮半島、日本とともにベトナムも漢字文化圏に属するのだ。中国支配下の八世紀、日本人の阿倍仲麻呂が唐の鎮南都護としてベトナムに駐在し、安定統治にあたったのは有名なエピソードである。中国の重圧下で抵抗と挫折を繰り返すことによって、ベトナムは独自のアイデンティティを強めていった。

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