「ブルーローズ・ケース」

執筆者:最相葉月 2001年6月号

 デヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』という映画をご存じだろうか。美女ローラ殺人事件をめぐる小さな田舎町の人間模様を描いた作品だが、ここでは物語を覆う重要な鍵として青いバラが登場する。たんなる金銭目的や怨恨ではない犯罪、精神領域にまで踏み込まなければ解決の糸口さえつかめない犯罪を、FBI捜査官たちは「ブルーローズ・ケース」と呼んで警戒した。 映画とは直接関係はないが、私は、現代の科学技術と人間社会の間には、まさにこの「ブルーローズ・ケース」ともいうべき複雑な問題が横たわっているように思えてならない。その代表格がクローン人間であり、ヒトゲノム解読や遺伝子診断など生命科学をめぐる諸問題である。つい数年前には考えられなかったことが、科学技術の急速な進歩によって可能になった、あるいは、時々刻々と可能性が高まっているために引き起こされるものだ。

カテゴリ: カルチャー
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