「値切り」どうぞにどぎまぎドイツ人

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2001年8月号
カテゴリ: 文化・歴史

 店が閉まる間際の買い物ほど、ドイツで勇気のいるものはない。閉店時間というのは、その時間まで客が買い物ができるという意味ではなく、店員の帰宅時間のことらしい。八時閉店なら、レジでは七時半にその日の売り上げを数え始める。この時刻に買いたいものとお金をそっと差し出すだけでも、店員は十分、不機嫌になる。ましてや、「他のサイズはありませんか?」などと厄介なことを持ち出すのはもってのほかである。「お客様は王様です」(Der Kunde ist Koenig)という、日本語と似た言い回しがドイツ語にもあるはずなのだが、実践に移されている気配はほとんどない。 日本を訪れたドイツの友人夫婦が、何より感激したのがデパートだった。閉店時間になると、うら若い女性店員が、何も買わなくても、「ご来店ありがとうございました」と深々と頭を下げてくれるからだ。日本人の接客態度の良さは評判らしく、テレビでも「日本とドイツの店員の接客態度がどんなに違うか」という特集を組んでいた。「この品物を五十個、贈り物用になるべく早く包装して下さい」といったリクエストに、笑顔を絶やさず、魔法のような早さでリボンを結んでいく日本の店員。かたや、レジの後ろにそびえる岩のように立ち、「忙しい私にそんなことを頼むな」と仏頂面で拒否するドイツの店員――。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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