プレゼンス UNHCR『世界難民白書二〇〇〇』

執筆者:船橋洋一 2001年9月号
カテゴリ: 文化・歴史 書評

 緒方貞子が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の第八代高等弁務官に就任したのは一九九一年一月だった。 冷戦後の「世界新無秩序」がその面妖にして醜悪な地肌をむき出しにしはじめた時だった。東西イデオロギーと米ソ対立に伴う代理戦争型の紛争ではなく、宗教、民族、国籍、人種、言語、地域といった人々のアイデンティティにからむ紛争が散乱しはじめた時に当たった。 最初の洗礼はイラクからのクルド人難民の波だった。緒方は直ちにヘリコプターでイラクとの国境地帯に飛んだ。狭い山道が車やトラクター、歩く人々で立錐の余地もないほどだった。 それは湾岸戦争の余波でもあった。そもそもクルド人難民に対する国際的な関心が高まったのも、湾岸戦争を取材したテレビ取材班が助けを求める彼らの姿をカメラに収めたことからだった。 だが、国内のクルド分離運動を警戒するトルコは、庇護を拒んだ。アメリカ主導の多国籍軍が介入して、トルコ国境の山中で身動きの取れなくなったクルド人の「保護作戦」に着手したが、結局は、彼らをイラクに連れ返そうという作戦だった。 UNHCRは、国境の外に逃れてきた人たちを保護するのを仕事としている。UNHCR内部は激論となった。

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