クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

これが「洪水の前」だったのか

徳岡孝夫
執筆者:徳岡孝夫 2001年12月号
カテゴリ: 文化・歴史

 戦争を身をもって憶えているわれらの世代は、アフガニスタンから届く「新しい戦争」のニュースを、信じられない思いで読んでいる。 まずアメリカという国家が、ビン・ラディンやオマルといった少数の個人を相手に戦争するとは初耳である。戦争は国と国の争いであるのが常識。 次に、戦争をしながら相手国の人権を守るなど、聞いたことがない。日本が戦って敗れた戦争では、アメリカは人権のそもそもの持ち主である罪なき民を、狙って殺した。焼夷弾が降る、あの驟雨のような音を、どうして忘れることができよう。 家族が殺され家は焼かれ、一切合財を失った。アフガンでは敵側の民のために救援物資を投下し、それが民家に命中して人が死んだという。想像もできないことである。今と昔、同じアメリカ人の行為と思えない。 アメリカ人は変わったのだ、とでも考えなければ納得できない。事実、彼らは変わったらしい。向こうのコラムニストたちが「9.11テロ以後、アメリカの何かが変わった」と、しきりに書いている。何かが、としか表現できない変化こそ最も怖い。私はあのテロは、アメリカの文化を変えるだろうと見ている。 日本の勤労感謝の日、彼らのサンクスギビング・デー(感謝祭)は、家族が一つ屋根の下に集い「日用の糧」を与え給う神に感謝する、アメリカ文化上とても重い意味を持つ日である。どの家庭の食卓にも、七面鳥とクランベリーソースとパンプキン・パイがある。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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