出生率の異常な低下がもたらす中・東欧の緊迫

執筆者:鳥海哲郎 2002年8月号
エリア: ヨーロッパ

EU加盟を目前に控えた中・東欧が内部からの崩壊の危機に直面している。モザイクのように入り組んだ民族間のバランスも崩れ、新たな民族紛争の勃発も懸念されている。[ウィーン発]二〇〇四年の欧州連合(EU)拡大を控え、中・東欧新規加盟候補十カ国の先陣を切るチェコ、ハンガリー、ポーランドは、日欧米企業の怒濤の直接投資を吸収、今や「新たな欧州の工場」と呼ばれるまでに変貌した。一九八九年の「鉄のカーテン」撤去以来、十三年間にわたる市場経済改革の苦闘は、ようやく実を結ぼうとしているように見える。 だが皮肉にも、そんな中・東欧に「衰微の予感」とでもいうべき重苦しい不安が漂っている。世界でも突出して低い出生率、西欧諸国も経験したことのないほど急激に進行している人口の高齢化問題である。中・東欧のスラブ民族と中央アジアのフン族の末裔であるハンガリー民族の異常に低い出生率は、順調な世代交代を不可能にするほどの危険水準に落ち込んでいる。それが、将来、深刻な労働力不足をもたらし、国力の減退につながることは言うまでもない。経済的側面ばかりが問題ではない。「民族のモザイク」と形容され、各民族が複雑に入り組む中・東欧地域の特殊事情を考慮に入れる必要がある。

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