黒い爪 高橋昭博『ヒロシマいのちの伝言』

執筆者:船橋洋一 2002年9月号
カテゴリ: 文化・歴史 書評

 広島市の原爆資料館のガラスケースの中に「黒い爪」が展示されている。鴬のくちばしのような醜く、黒く、湾曲した物体である。 一九四五年八月六日、原爆が投下された時、爆風で飛散したガラス片が右手人さし指の爪の生え際に突き刺さった。被爆後一年ほどして緑色がかった爪が生え始め、そのうち黒くなる。二、三年経ち二センチほどにのびると根もとに亀裂が入りポロッと自然に落ちる。五十七年後のいまもその部分から黒い爪は押し出されてくる。 写真では捉えられない内なる破壊の恐ろしさが伝わってくる。底冷えのする恐怖とでも言おうか。

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