負け戦を承知で選んだシラク大統領の真意

渡邊啓貴
執筆者:渡邊啓貴 2003年5月号
カテゴリ: 国際
エリア: ヨーロッパ

「フランスは、他の民主主義国家同様、サダム・フセイン独裁政権の崩壊を歓迎する」 バグダッドが陥落した翌日の四月十日に、フランスのシラク大統領はこんな短い声明文を出した。ただし、こう付け加えるのも忘れていない。「治安の安定が確保されたら、イラクは出来るだけ速やかに、国連の承認のもとに主権を取り戻すべきである」。 同時テロの衝撃から回復していない米国民の愛国心に訴えることによって、ブッシュ米大統領はイラク攻撃に国民を引っ張っていった。しかし、「なぜ今なのか」「封じ込め政策ではいけないのか」という問いにはブッシュ政権の説明は決定的な説得力を欠いた。そこを突いて国連安保理で論陣を張ったのがフランスだった。 しかし、米国が「単独行動も辞せず」と主張し、圧倒的な軍事力で攻め込めば、勝ち目がないのは最初から分かっていた話。にもかかわらず米国に対抗したシラク大統領の真意はどこにあったのか。 しばしば言われる理由は、米国との石油の利権をめぐる争いである。フランスは米国の戦意に、世界的な石油支配の野心を見ている。フランスとロシアは九〇年代以後、イラクによる米英と仏中露の分断政策の恩恵を受け、出遅れた米国を尻目に、フランスはマジュヌーン油田やビン・ウマル油田、ロシアは西クルナ油田の第二期開発などの採掘権を確保した。フランスのトタルフィナ・エルフ社は、百五十億から百七十億バレルにも上る埋蔵量の利権を得たといわれるが、これは現在同社が世界中で押さえている量の倍に相当する。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴
渡邊啓貴 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。
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