クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

イラク反戦のとんだ勘違い

執筆者:徳岡孝夫 2003年5月号
エリア: 中東

 バグダッドが戦場になったので思い出したが、私はあの町で交通事故をやったことがある。正確には私は助手席にいて、ハンドルを握っていたのはダイハツのエンジニアだった。プロだから、ヘマな運転などしない。相手が悪いに決まっているのに、イラクでは正義は通じなかった。 前日午後三時にアンマン(ヨルダン)を出て月明の砂漠を九百六十キロ、途中二時間ほど仮眠しただけで、こちらも疲れていた。西の方からバグダッド市内に入ったのが正午前、気温は四十五度になっていた。 大きいロータリーに入って向こう側に出ようとしたとき、後ろから来たトラック改造の乗合バスが無理に追い抜いたのでバンパー同士がガツンとやった。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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