深層レポート 日本の政治
深層レポート 日本の政治(44)

総裁選に向けて小泉首相が投げ込むど真ん中のストライク

2003年9月号
カテゴリ: 政治
エリア: 日本

 小泉純一郎首相は朝が苦手だ。低血圧気味のせいか、午前中は大概、表情にも言葉にも張りがない。国会答弁や記者団とのやり取りでおなじみの小泉節が飛び出すのは決まって午後の部だ。 八月六日朝の広島原爆死没者慰霊式・平和祈念式でのあいさつはひどいものだった。ぼそぼそと蚊の鳴くような声で原稿を棒読みしただけ。マイクを通しても話はさっぱり聞き取れない。文案を練った首相秘書官は「いろいろ工夫したんだが」と落胆の色を隠せなかった。 しかし翌日は違った。甲子園球場での全国高校野球選手権大会の開会式。首相は別人のようにハッスルしていた。「厳しい練習に耐えて、あこがれの甲子園出場の夢を実現した高校球児の皆さん、おめでとう。諸君の一投一打にかける懸命さ、そのひたむきな姿に我々は感動します」 右ひざのけがを押して優勝した横綱貴乃花に「痛みに耐えて、よく頑張った。感動した」とお祝いの言葉を贈った二年前の大相撲夏場所の表彰式を彷彿とさせる絶叫調のあいさつだった。側近が解説する。「貴乃花の時もそうだったが、首相は高校球児にも『抵抗勢力の妨害に耐え一歩一歩改革を進める自分に似ている』と感情移入している様子だった」。 首相の闘争心にスイッチが入ったのは前日の六日午後、作家・故司馬遼太郎の記念館を見学した時からだ。記者団に感想を問われると「戦国時代、幕末に比べたら今の権力闘争なんて大したことはない」。その後のタウンミーティングでも「抵抗勢力からすさまじい抵抗、反対の声が上がっているが、抵抗が激しいほど闘志が湧く。これからもバッチリ改革を進めていく」と吼えた。その余勢を駆って乗り込んだ甲子園。熱のこもった小泉節に三万五千人の観衆は沸いた。

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