饗宴外交の舞台裏 (69)

音楽祭に託したシュレーダー首相の思惑

執筆者:西川恵 2003年10月号
エリア: ヨーロッパ

 小泉純一郎首相は八月十七日からドイツ、ポーランド、チェコを歴訪。最初のドイツではシュレーダー首相に招待され、バイロイト音楽祭でワーグナーのオペラ「タンホイザー」を鑑賞した。 昨年、カナナスキス・サミット(カナダ)終了後、シュレーダー首相が横浜でのサッカー・ワールドカップ決勝戦観戦のため日本の政府専用機に同乗。機中の歓談で小泉首相がオペラファンと知り、招待を約束していた。 十八日、ベルリンで日独首脳会談を終えた両首脳は共にブラックタイに着替え、ヘリコプターで一時間半のバイロイトに飛んだ。劇場では千八百人の超満員の観衆に迎えられ、五時間三幕のオペラを鑑賞した。幕間にはオーケストラ・ピットや舞台裏を見学し、孫のウォルフガング・ワーグナー夫妻が催した劇場のレストランでの夕食会にも出席。ワーグナーのCDは全て所有、生演奏を聴くのが夢だったと言う小泉首相は、興奮からか「とめどなくしゃべり続けた」(関係者)という。終了後、記者団に「感動した」「忘れられない夜になった」と語った。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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