【ブックハンティング】 感覚的「対米自立論」を超える

執筆者:伊奈久喜 2004年6月号
エリア: アジア

 国連大使に転じた著者が森内閣成立から自衛隊イラク派遣までの三年半に書いた政治・外交論集が本書『日本の自立』(中央公論新社)である。著者の立場を知る読者には、書名が意外あるいは挑戦的に映る。副題「対米協調とアジア外交」で合点がいくが、あえて「日本の自立」を書名にしたのは、対米協調路線を「対米追随」と見る、いわゆる対米自立論への批判を込め、対米協調こそ日本の自立の道と考えたのだろう。 三年半の間に米国はアフガニスタンとイラクで戦争を始めた。とりわけイラク戦争は、国連安保理の場で仏独と米英とが対立し、それが解けぬまま開戦したため、対米協力を対米追随とする見方は世界中で勢いを得た。日本でも仏独のような対米自立姿勢をとるべきだとする議論があった。対米自立論者は、対米協調論を「湾岸トラウマ」と批判した。湾岸トラウマとは、一九九〇年の湾岸危機から九一年の湾岸戦争に至る過程で日本の対米支援の方法がまずかったため米国世論の感情的反発を招いた事実を重視する考え方である。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top