「中朝血盟関係」にすがるしかない金正日

執筆者:平井久志 2011年6月3日
エリア: アジア
北朝鮮の金正日総書記(左)と中国の胡錦濤国家主席の会談を報じる中国中央テレビ (C)時事
北朝鮮の金正日総書記(左)と中国の胡錦濤国家主席の会談を報じる中国中央テレビ (C)時事

 北朝鮮の朝鮮中央通信は5月27日、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が20日からの非公式中国訪問を終え、27日、北朝鮮に帰国し、3男の金正恩(キム・ジョンウン)党中央軍事委副委員長、実妹の金慶喜(キム・ギョンヒ)党軽工業部長、側近の李明秀(リ・ミョンス)人民保安部長、軍の金元弘(キム・ウォンホン)、玄哲海(ヒョン・チョルヘ)両大将らが国境で出迎えたと報じた。  同通信は「6000キロの遠い路程を歩みながら、朝中友好の年代記にまた1ページの輝かしい章を刻み込み、祖国に無事帰ってきた国防委員長」と金総書記を称えた。  金総書記は2008年8月に脳卒中で倒れ、左手が不自由になるなどしたが約1週間で6000キロという大旅行をして帰国した。6000キロと言っても実感が湧かないだろうが、青森―鹿児島間が約2150キロである。来年2月で70歳になる病気回復中の金総書記が約1週間で青森から鹿児島に行って、鹿児島から青森に行って、また鹿児島に戻るという大旅行をしたと思えば、この距離を実感することができるであろう。  金総書記は7泊8日の中国訪問を終えると、出迎えた金正恩を連れ、平壌への帰途に慈江道の煕川発電所建設現場を現地指導した。さらに、朝鮮中央通信は29日午前2時前に「金正日同志の中国訪問成果を祝賀する朝鮮人民内務軍協奏団音楽舞踊総合公演」が行なわれ、ここに金総書記本人だけでなく、国境にまで出迎えた金正恩や党や軍の幹部が多数参加したと報じた。朝鮮中央通信は公演の日時を報じていないが、金総書記は28日に煕川発電所を現地指導し、同日夕に公演を観覧したとみられる。  金総書記が2000年以降に訪中したのは今回が7回目だが、北朝鮮自身がその成果を自ら祝う行事までをするのは今回が初めてである。  後継者の金正恩は自ら国境まで出迎えることで、金総書記の留守中は国内で業務に励み、父を思って国境にまで出向く孝行ぶりを演出した。金総書記も1982年9月に訪中を終えた金日成(キム・イルソン)主席を平壌駅まで出迎えて「孝行ぶり」をアピールしたことがあり、金正恩の出迎えはこれを見倣ったものであろう。さらに金総書記の妹の金慶喜党政治局員や党、軍の幹部が大挙同行することで、金総書記の変わらぬ権威と後継体制づくりを示す計算だったとみられる。

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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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