深層レポート 日本の政治 (142)

野田政権「安全運転の終わり」と「危機の始まり」

執筆者: 2011年10月27日
タグ: 日本
エリア: アジア

 TPP(環太平洋経済連携協定)加盟交渉への参加をめぐる議論が白熱してきた。参加によって日本に一定のメリットがあると判断して、野田佳彦首相は参加に前向きな姿勢を示している。ただ、別の側面からみると、野田首相は政権運営上の難しい課題を抱え込んでしまったとも言える。日本にとってTPP交渉参加がいいのか悪いのかという政策的判断とは別に、党内外に反対勢力が存在する課題について、これらの勢力の抵抗を押し切って推進するという政治判断を下さなくてはならなくなったからだ。

TPPをめぐる路線対立

「安全」から「危機」へ突入 (C)時事
「安全」から「危機」へ突入 (C)時事

「どっちつかずの決着というものは、あり得ません」  10月中旬、野田首相は親しい知人と懇談した際、TPP参加についてこう語った。発言の趣旨は、TPPには参加するかしないかのどちらかであり、中間的な結論はないというものだ。当たり前である。だが、その発言の微妙なニュアンスは、野田首相があきらかに参加へと舵を切ったことを物語っていた。実際、その数日後の17日、野田首相は内閣記者会のインタビューに応じて、「高いレベルの経済連携は日本にプラス」と述べ、TPP参加の意思を明確にした。  TPPに参加するかしないかは、野田首相がいずれ決断しなければならない事項であったのだから、11月12日からハワイで始まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議前に決断するという方針はそれほど意外なことのようには見えない。だが、内閣発足以来の野田首相の政治姿勢をみると、これは野田政治の大きな転換点であることが分かる。なぜなら、これまでの野田首相の処世術は「何も決断しない」を基本としていたからだ。  野田首相はこれまで一貫して政権運営において「安全運転」を続けてきた。党内では融和に努め、外向けには波紋を広げるような重大な政策決定は避けてきた。だが、国家を預かる首相の立場にある以上、いつまでも政治決断を先送りし続けるわけにはいかない。野田首相が「君子危うきに近寄らず」の姿勢をとったとしても、「危うい」課題の方が首相に近づいてくる。その最初の試練がTPP問題だった。  自民党などの野党内にTPP慎重論が広がったほか、農業関係団体や医療関係団体からも反発の声が上がった。だが、もっと深刻なのは、民主党内でも重大な路線対立が生まれたことである。民主党内のTPP参加反対派の中心人物である山田正彦前農林水産相は10月23日、記者団から「首相はTPP交渉参加を強行する勢いだが」と尋ねられて、語気を強めてこう言った。 「何としても阻止する。阻止しなければならない」  また、民主党と連立を組む国民新党の亀井静香代表も10月5日の記者会見で、「参加しようと言っても、できない。見ていなさい、絶対にできないから。不可能なことができるとは思わない」と大見得を切った。

カテゴリ: 政治
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