韓国「無党派という妖怪」の誕生

執筆者:平井久志 2011年11月1日
エリア: アジア
ソウル市長選で当選し、支持者と勝利を祝う朴元淳氏 (C)EPA=時事
ソウル市長選で当選し、支持者と勝利を祝う朴元淳氏 (C)EPA=時事

 マルクスの『共産党宣言』風に言えば、韓国の政治状況は「韓国を妖怪が徘徊している。“無党派”という妖怪が」ということのようだ。10月26日に実施されたソウル市長選は、無党派層が既成の政党、政治家に「ノー」を突き付け、野党統一候補で、無所属の朴元淳(パク・ウォンスン)候補が、与党、ハンナラ党の羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)候補を破り当選した。  当初は超接戦になるのではという予想もあったが、投票結果(開票率99.98%)では、朴候補が53.40%で羅候補の46.21%に7.19ポイントの差を付けた。  選挙結果は韓国の抱える問題を浮き彫りにした。  ソウルの25区中でハンナラ党の羅候補が優勢だったのは富裕層が多いといわれる江南3区(江南、松坡、瑞草)と龍山区の計4区だけだった。羅候補は瑞草区では60.12%と朴候補に20.51ポイント、江南区では61.33%と22.96ポイント、松坡区では51.12%で2.59ポイント、龍山区では51.82%で4ポイントそれぞれ朴候補をリードした。しかし、羅候補自身の国会議員選挙区である中区でも敗北したのをはじめ、残り21区すべてで敗北した。韓国では慶尚道と全羅道の葛藤をめぐる地域問題がよく指摘されるが、ソウル市の富裕4区とそれ以外の区という「江南」と「江北」の政治地図が鮮明になった選挙結果だった。江南3区の投票率は瑞草53.1%、江南49.7%、松坡50.2%と今回のソウル市長選での投票率48.6%より高く、保守・富裕層の危機意識を反映したが、この3区の有権者数は135万7575人で、ソウル市全体の837万5901人の16.2%に過ぎず、全体の劣勢は覆せなかった。

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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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