「強盛大国」「人民生活の向上」はどこへ行った?

執筆者:平井久志 2012年1月11日
エリア: アジア
1月1日、北朝鮮の戦車師団を視察した金正恩氏[朝鮮中央通信が配信](C)AFP=時事
1月1日、北朝鮮の戦車師団を視察した金正恩氏[朝鮮中央通信が配信](C)AFP=時事

 1月8日は金正恩氏の29歳の誕生日であったが、特別な祝賀行事はなかった。金正日総書記への追悼ムードが残る中で祝賀行事をするわけにもいかなかったのが実情だろう。ただ、朝鮮中央テレビは「白頭の先軍革命偉業を継承され」という約50分の記録映画を放映した。この記録映画は、金正恩氏が金総書記とともに2009年4月に長距離弾道ミサイルの発射に立ち会っていたことを明らかにした。同放送は、当時、金総書記が「今回、人工衛星(長距離ミサイル)を迎撃すれば、敵たちの策動に打撃を与えるのはわが金大将(金正恩氏)」とし「彼が打撃司令官として陸海空軍を指揮した」と述べたと紹介した。さらに金正恩氏が衛星管制総合指揮所(ミサイル発射指揮所)を訪問した日に「今日は覚悟して行って来た。敵どもが迎撃に出れば、本当に戦争をしようと決心していた」と語ったと伝えた。いずれも金正恩氏を金総書記の先軍路線の継承者として偶像化するものだ。さらに金正恩氏が公式に登場した2010年9月の党代表者会の前から軍事的な経験を積んでいたことを住民に強調する意図があるとみられる。 「現地指導から戻らない将軍(金総書記)をお母さまと一緒に夜通し待ったこともあった」と北朝鮮の公式メディアとしては金正恩氏の母に初めて言及したが、名前や在日朝鮮人2世であることなどには触れず、抽象的な言及にとどまった。  

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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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