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震災と原発事故への対応にあけくれた1年であった。2011年は日本にとって、大きな転機となった年として記憶されるであろう。ただし、巨大な不幸にもかかわらず、そこから少しでも前に進もうとする始まりの1年であったのか、それとも災害の重みに耐えかねて、下り坂を転げ落ちる決定的な1年であったかは、まだわからない。前者であって欲しいと思ってこの1年を過ごしたが、後者ではないかという思いも脳裏をよぎる。
そこで何よりも問われたのは、「政治」であろう。政治とはいったい何なのか、何の役に立つものなのか。限られた人的・物的資源や財政制約のなかで、それでも国民のもてる力や思いを災害復興のために結集しなければならない。そのためのリーダーシップをとるのが政治の役割であろうと誰もが期待した。そしてその期待はいまや虚しいものになりつつある。いわゆる「政治」とは、どこか国民の実情とずれたところで展開されるものではなかろうか。そのような疑念が蔓延しつつある。
「現場」と「日常」から政治を問い直す
おそらく、私たちはいま一度、「政治」とは何なのかを問い直す必要があるのだろう。それも問題が起きているまさにその「現場」や、あるいは私たちの日々の実感や手の届く「日常」から、政治の意味を再定義しなければならない。そうでなければ、議論は虚しくなるばかりであり、すべてを否定したいという暗い情熱へと私たちは引きずられていくであろう。ヒントとなりうる事例を2つとりあげたい。
第1は被災地のある自治体職員の話である。仮にMさんとしておこう。Mさんは筆者にとって旧知の人物であり、これまでも地域の将来を語り合ってきた関係である。そのMさんは、今回の震災にあって、まさに災害対応の第一線に立って獅子奮迅の活躍をされている。震災直後の救援・避難から仮設住宅の建設・入居まで、Mさんは文字通り、不眠不休で陣頭指揮にあたった。
しかしながら、自治体役場に寄せられる声には厳しいものも少なくなかった。行政への対応要請が山ほど寄せられると同時に、その不備へのクレームや公平性についての疑念も殺到した。Mさんは、自らクレームへの対応にあたると同時に、自分の不在時に代わりに対応する担当者に心がけさせたことがあるという。
「矛盾する利害」にどう対処するか
1つは、いかなる案件が持ち込まれても、「それはここの管轄ではない」と言わないこと。もちろん、行政の各部署にはそれぞれの職務がある。しかしながら、災害という緊急時にあって、「管轄ではない」という一言は直ちに「たらい回し」を意味する。場合によっては、人の命に直接大きな影響を与えるだろう。したがって、必要な情報を関係部署から入手して回答するのはもちろん、どの部署の管轄にも属さない事柄も、自らの職務と見なして対応したという。逆に言えば、あらゆるクレームを自らのものとして受け止めたということだ。
第2に、怒鳴り込むなど感情的な声が少なくないなか、つとめて冷静に対応しようとしたことだ。もちろん、クレームに対応する側も人間である。自分自身の住居が破壊され、家族の行方もわからない。にもかかわらず、「行政の責任だ」「どうしてくれる」という住民の批判に対しては、「自分だって、大変なんだ」と逆ギレするわけにはいかない。まずは自分の名を名乗り、地位を明らかにする。行政に対する批判に直接反論せず、しかしながら行政としての説明は丁寧にする。それから「想定外だった」とはけっして言わない。
我ながら不思議なほど冷静だったとMさんは言う。そのように語るMさんには、どこか達観したような気配が感じられた。あらゆる案件が持ち込まれ、場合によっては、ほかに持っていきようのない不満や怒りの感情すらぶつけられる。にもかかわらず、そこから逃げず、行政としてできることとできないことを丁寧に説明する。自分自身の利害があり、そこから自由になれないことは認めつつ、それをどこか上から俯瞰するような視点をもっている。
社会のあらゆる問題が寄せられ、利害の矛盾をぶつけられるにもかかわらず、どこかで公共の視点が求められるのが政治である。もちろん、あらゆる利害から超越するような人間などどこにもいない。が、政治の担い手が、自分も関係者の1人に過ぎないとして、自己の利益のみを追求するとき、もはや政治と呼べるような活動は社会のどこにも存在しなくなる。自らの利益をほんの少しでも相対化して眺める視点が政治には不可欠である。
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