クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

西太后時代の再来か

執筆者:徳岡孝夫 2012年4月12日
エリア: アジア

 中華文化圏(むろん日本を含む)に暮している限り、人は汚職をway of life として受け入れなければならない。賄賂を出す必要に迫られた場合、つまらぬ良心に相談したりせず、さっさと出さなければならない。ずっと前から私はそう信じ、その常識に添って進退してきた。  最も少額の賄賂。たとえば私が家族と共にバンコクに住んでいた1960年代のことである。タイに住む外国人は、2週間ごとに入管に出頭して旅券を示し、滞在期間を延長してもらわねばならなかった。  それを3度やって8週目の終わりが近づくと、いったんタイ国外に出て、そこのタイ大使館・領事館で一時滞在許可を新たに発行してもらってタイに入国し直す。私がどんなに忙しくても、また子供に熱があっても、出国しなければならない。手続きをする部屋からは、入管法に違反して捕まった連中の入った檻が見える。熱帯の国だから、収監者は全員がパンツ一丁の雑居房である。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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