フランス新政権「ミッテラン流」は通用するか

執筆者:渡邊啓貴 2012年5月10日
エリア: ヨーロッパ

 5月6日、フランス次期大統領にオランド社会党候補が選ばれた。同夜の支持者の集会で、オランドは「私は希望を再び与えることができたことを誇りに思います。変化は今始まります。……私はすべての人の大統領です」と力強く語り、「結集・団結」を繰り返し、過去との「決別」を強調したサルコジ大統領との違いを訴えた。

「消極的な選択」

ミッテランの薫陶を受けた「普通の大統領」オランド氏 (C)AFP=時事
ミッテランの薫陶を受けた「普通の大統領」オランド氏 (C)AFP=時事

 オランドは1954年生まれの57歳。80年にエリート校・国立行政学院(ENA)を卒業。88年に政敵であるジャック・シラクの地盤・コレーズ県で国民議会(下院)議員に選出され、97年に社会党第一書記(党代表)に就任した。前回2007年の大統領選挙では、事実婚のパートナーであったセゴレーヌ・ロワイヤルを支援したが敗北。08年11月に退任するまでの第一書記の在任期間は、社会党の歴史の中で最長だ。昨年10月の党予備選で、オブリ現職第一書記を破って党大統領候補となった。政界入りは81年にミッテラン大統領が当選した選挙運動のときであり、ミッテランの薫陶を大いに受けており、本人が最も尊敬する政治家だ。オランド政治の原点はすべてミッテランにあると言っても過言ではない。  今回の選挙の第1の意味は、保守長期政権への国民の批判であり、オランド新大統領が主張し続けた「交替」を国民が望んだことにある。しかし、ミッテラン政権以来の社会党大統領の誕生にもかかわらず、国民の間での「変化」への期待感は大きくない。世論調査では、過半数の国民が政権交代によって生活状態が変化するとは考えていない。その意味では「消極的な選択」であると言える。  その背景には左右の政策に大きな違いがなくなってきたことがある。それは先進各国共通の現象であり、80年代ミッテラン政権が誕生後1年足らずで軌道修正した以後のフランスでも同様である。実際に今回の選挙の対立点も、緊縮財政を優先し大企業・富裕層への減税による景気刺激策で雇用拡大を狙うサルコジ大統領と、雇用拡大を優先しその財源を富裕層への増税と経済成長に求めるオランドとでは、優先順位や目標数値の違いはあっても、かつてのような「大きな政府」と「小さな政府」の対立という劇的な違いはなかった。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴(わたなべひろたか) 帝京大学法学部教授。東京外国語大学名誉教授。1954年生れ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程・パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校・ボルドー政治学院客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員教授、外交専門誌『外交』・仏語誌『Cahiers du Japon』編集委員長、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。最新刊に『アメリカとヨーロッパ-揺れる同盟の80年』(中公新書)がある。
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