饗宴外交の舞台裏 (79)

若手シェフが腕を揮ったノルマンディーの昼食

執筆者:西川恵 2004年8月号
エリア: ヨーロッパ

 フランスのノルマンディーの中心都市カーンでレストランを経営するシェフ、エバン・ボーチエ氏にエリゼ宮から電話が入ったのは今年三月。執事長のジャッキー・アルベール氏からだった。「六月のノルマンディー上陸作戦六十周年記念式典の昼食会をお願いしたい」と執事長は言った。「なぜ私が選ばれたか知りませんが、料理人には一生にあるかないかの名誉な話でした」 同氏は十代で料理界に入り、各地のレストランで修業を積んだ。一九九五年、二十九歳で地元のカーン市に戻り、売りに出されていたレストランを買い取り、開いたのが現在のレストラン「プレッソワール」。二十代でレストラン経営者になるのはフランスでも珍しい。「借金してでも故郷で自分のレストランを持つのが夢でした」。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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