国際人のための日本古代史 (21)

「聖武天皇の歯」と光明子の実像

執筆者:関裕二 2011年11月22日
タグ: 日本
東大寺大仏殿 (筆者撮影)
東大寺大仏殿 (筆者撮影)

 昨年、奈良では平城京遷都1300年記念の行事ばかりが目立ったが、じつは光明子(聖武天皇の皇后・光明皇后)の1250年忌に当たっていた。上野の東京国立博物館で特別展「東大寺大仏 天平の至宝」が開かれたのは、このためだ。おかげで、普段接することのできないお宝に出逢えた。  また、今年10月、東大寺に待望のミュージアムが完成した(東大寺総合文化センター内)。東大寺の仏教美術と言えば、すぐに思い出すのは大仏さまと南大門の運慶、快慶作仁王像。しかし、東大寺には他にも西大門勅額、八角燈籠火袋羽目板をはじめ、数々の知られざるお宝が埋もれていた。これまで宝物館がなかったのが不思議なぐらいだ。至宝の数々を常設展で拝観できるのだから、これほど嬉しいことはない。  そして、ミュージアム開館を待っていたかのように、新たな事実が報告された。明治時代の大仏殿修理に際し、聖武天皇の遺愛品と見られる刀剣などの鎮壇具(建物に災いがないように祈り、清める仏具)とともに須弥壇(しゅみだん)の地下から出土していた人間の歯が、聖武天皇のものではないかというのだ。分析してみると、第1大臼歯(右下あご部分)で、熟年男性の歯と判明した。埋めたのは光明子であろう。  それにしても、なぜ歯を埋めたのだろう……。  縄文時代の日本列島では、抜歯の習俗があって、弥生時代になっても、木の枕に歯を埋め込む例がみつかっている(青谷上寺地遺跡、鳥取県鳥取市青谷町)。東大寺の歯も、縄文時代から継承された、伝統的な呪術なのかもしれない。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
関裕二(せきゆうじ) 1959年千葉県生れ。仏教美術に魅せられ日本古代史を研究。武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。著書に『藤原氏の正体』『蘇我氏の正体』『物部氏の正体』、『「死の国」熊野と巡礼の道 古代史謎解き紀行』『「始まりの国」淡路と「陰の王国」大阪 古代史謎解き紀行』『「大乱の都」京都争奪 古代史謎解き紀行』『神武天皇 vs. 卑弥呼 ヤマト建国を推理する』など多数。最新刊は『古代史の正体 縄文から平安まで』。
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