饗宴外交の舞台裏 (83)

大使夫人の心得

執筆者:西川恵 2004年12月号
タグ: 日本

 ラフルアー宮澤啓子さんは宮澤喜一・元首相を父に持ち、米外交官と結婚した。最近、そのご主人が駐マレーシア大使に任命され、十月初め、宮澤さんは米国務省が開いた新任大使夫妻を対象にした研修に参加した。

 ワシントンでの研修は二週間。国務省担当官が講師で、身の安全を守るセキュリティー、メディア対応法のメディア・トレーニング、経費管理、私的・公的物品管理などテーマは多岐にわたった。

 大使夫人だけ七人集まったある日のテーマは「大使夫人の心得」。まず各自考えを書いた後、ディスカッションをした。宮澤さんは勇気を出して質問した。「私たち妻には手当てがなく、雇用規定もない。『夫について行かない』という選択をしてもいいのでしょうか」。別の夫人も言った。「私は企業コンサルタントで、夫より稼いでいる。そのキャリアを捨てて行かなければならないのが不満です」。講師は逆に問いかけた。「それはあなた方の自由です。でも夫が大使という一番意義のある素晴らしい時間を過ごそうという時、その体験を共有しないのは夫婦として残念だと思いませんか」。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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