欧州の人種差別と日本選手

執筆者:星野 智幸 2013年5月27日
エリア: ヨーロッパ

 2013年が明けたばかりの1月3日、イタリア北部のスイス国境に近い小さな町で、4部リーグに所属するプロ・パトリアは、セリエAの名門ACミランを迎えて練習試合を行なっていた。

 前半の25分が過ぎたとき、左サイドを駆け上がってパスを受けたACミランの元ガーナ代表ケビン・プリンス・ボアテングは、突然ボールを拾って手に取ると、メインスタンドに向かって蹴り込んだ。そして、審判やプロ・パトリアの選手がなだめるのを振り切ってシャツを脱ぎ、ピッチを後にした。

 ボアテングが怒りを向けたスタンドには、プロ・パトリアのサポーター「ウルトラス」が陣取り、試合開始直後からボアテングらアフリカ系の選手に対し、猿の吠え声を真似たチャント(歌)を聞かせ続けていた。ミランはキャプテン、アンブロジーニの判断で全員が引き上げ、試合をボイコットした。この抗議行動は、ヨーロッパ中のサッカー関係者から支持された。

カテゴリ: スポーツ
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執筆者プロフィール
星野 智幸(ほしのともゆき) 作家。1965年ロサンゼルス生れ。早稲田大学第一文学部を卒業後、新聞記者をへて、メキシコに留学。1997年『最後の吐息』(文藝賞)でデビュー。2000年『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、2003年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、2011年『俺俺』で大江健三郎賞を受賞。著書に『ロンリー・ハーツ・キラー』『アルカロイド・ラヴァーズ』『水族』『無間道』などがある。
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