饗宴外交の舞台裏 (85)

5人の大統領の味覚を知るある料理長の引退

執筆者:西川恵 2005年2月号
エリア: ヨーロッパ

 三十九年にわたってエリゼ宮(フランス大統領官邸)の厨房をあずかってきた料理長、ジョエル・ノルマン氏(六〇)が十二月三十一日、定年で退職した。仕えた大統領はドゴールから現在のシラクまで五人。今日のエリゼ宮の華麗な饗宴料理を築いた功労者だった。 ノルマン氏とはパリ特派員時代に取材を通じて知り合い、以来、私がフランスを離れてからもコンタクトをとってきた。十二月半ば、日本から一足早い退職祝いの国際電話をエリゼ宮に入れた。「いつ饗宴が入るか分からないからまだ退職気分なんて全くないよ」。聞きなれた野太い声が、厨房の喧騒とともに受話器から伝わってきた。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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