「プーチンブルク」建設の指揮官は女性知事

執筆者:内藤泰朗 2007年6月号
エリア: ヨーロッパ

[モスクワ発]ロシアのプーチン大統領のお膝元サンクトペテルブルクでは、世界最大級の天然ガス国営独占企業体ガスプロムの超高層ビル建設をはじめ、世界でも例をみない大規模な企業誘致、モスクワからの憲法裁判所移転など、古都のイメージを一新する動きが目白押しだ。
 その牽引役が、プーチン氏の庇護を得て出世街道をひた走るサンクトペテルブルクの有力女性知事、ワレンチナ・マトビエンコ氏(五八)。来春に任期満了となるプーチン大統領の後継候補として名前があがる唯一の女性政治家であるマトビエンコ知事は、現代ロシアの“女帝”となるのか。関係者の注目を集めている。
 発展の遅れたロシアを西欧に近づけようとピョートル大帝が三百年以上前に北部湿地帯に礎を築いたサンクトペテルブルクは、「北のベニス」と呼ばれる西欧的な街に成長した。人口約五百万のロシア第二の都市が、オイルマネーによる歴史的好景気という追い風を受けて、さらなる変貌を遂げようとしている。
 なかでも大きな話題を呼ぶのが、市の中心部に地上約三百六十メートルという初の超高層ビルを建設しようとの計画だ。通称「ガスプロム・シティ」。六百億ルーブル(約二千八百億円)を超す総工費をガスプロムと市が折半し、オフィスとしては欧州最大の床面積百万平方メートルの巨大ビルを建設し、ガスプロムの石油部門子会社「ガスプロムネフチ」の本社ビルとして使用するほか、ホテルやショッピングセンター、博物館などが入る予定だ。二〇一二年の完成を目指す。
 英国の設計事務所RMJMロンドンが提案したガスの炎を彷彿とさせる新ビルのタワーは、太陽の光によって一日に十回、その色彩を変えるという。「このデザインは古い欧州の趣を残した街の景観を破壊する」「ガスプロムによるサンクトペテルブルク支配の象徴になりかねない」など早くも懸念の声は強まっている。
 しかし、ガスプロムのミレル社長は、新ビルは「サンクトペテルブルクの新たな経済発展のシンボルである」と自賛。マトビエンコ知事も「ペテルブルクにロシアのナンバーワン企業がやってくることに感謝しなければならない」と強調し、あくまで開発事業を強行する姿勢だ。

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