「総連ビル事件」の埋もれた見取り図

執筆者:伊藤博敏 2007年8月号
エリア: アジア

一兆四千億円近い税金で救済され、それでも本部を手放すまいと画策。朝鮮総連に関わる事件は、真相からズレた絵解きがなされた。「詐欺」という事件構図を想定した者は、朝鮮総連中央本部の売却問題を取材する“素人”の記者のなかにも“プロ”の法曹関係者のなかにもいなかった。 詐欺事件には「被害者」が必要である。六月二十八日に東京地検特捜部が逮捕したのは、元公安調査庁長官の緒方重威容疑者、不動産会社「三正」元社長の満井忠男容疑者、旧安田信託銀行の元行員で売却計画を編み出した河江浩司容疑者の三人。彼らが共謀し、弱みにつけこんで架空の売買を持ちかけ、総連側を欺いて中央本部の土地・建物を手放させた――。特捜部が描いた事件の構図に沿えば、「被害者」は総連側、とりわけ売買を担当した許宗萬責任副議長ということになる。

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執筆者プロフィール
伊藤博敏(いとうひろとし) ジャーナリスト。1955年、福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒。編集プロダクションを経て独立。とりわけ経済事件の取材に定評があり、数多くの週刊誌、月刊誌、ウェブニュースサイトなどに寄稿。主な著書に『許永中「追跡15年」全データ』(小学館文庫)、『「カネ儲け」至上主義が陥った「罠」』(講談社+α文庫)、『黒幕』(小学館)などがある。
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