経済の頭で考えたこと
経済の頭で考えたこと(75)

米国の脱中東関与とサウジの動揺

田中直毅
執筆者:田中直毅 2015年6月5日
エリア: 北米 中東

 中東への米国の関与が極端に薄くなることを前提とした主権国家の行動が相次ぐことになった。結果として地域秩序の核心がいかなるものになるのかについての各当事者の確信は、極めておぼつかないものになってきた。何が確かな枠組みとなるのかを見極めるための模索が続きそうだ。
 サウジアラビアによるイエメンの「フーシ」に対する攻撃は悲惨な結果となった。1000人を超える住民が死亡し、負傷者は4000人を上回り、15万人が流民化した。サウジはイエメンへの海上からの輸送封鎖に踏み切ったため、国際赤十字社が住民の状況をカタストロフ(破滅)と表現するほどの状況に立ち至った。食糧、水、薬品、燃料の全ての供給が跡絶えたのだ。米国はサウジのイエメン作戦を支持したのだが、さすがにこの過酷な状況に耐えられず、サウジに対して停戦を推奨せざるを得なくなった。いったいどこで手元が狂ったのか。
 まず指摘せねばならないのは、米国がイランとの間にどのような関係修復を行うのか、という点についての内外への十分な説明がなかったことである。ローザンヌで開かれていた核交渉の着地点について、サウジは「イランは決意すれば1年間で核兵器を手にする立場を手にした。これは、イランが今後地域大国にふさわしい秩序の担い手(責任のあるステーク・ホルダー)へと変化することへの見返りであり、米国はそのことを外交実績にしようとしている」と受け止めたのだ。
 こうした見方に立てば、イランの影響力はイラク、シリア、レバノンのそれぞれの有力な拠点やその影響下にある分子の行動を通じて一挙に拡がる。そしてイエメンにおいてはシーア派勢力の「フーシ」がイランの後援を得て勢力の拡大を図っているという認識にならざるを得ない。米国はこれまでの中東の同盟国との間で、中東における今後の関与の確たる説明を怠ったのだ。これは決定的な誤りであった。

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執筆者プロフィール
田中直毅
田中直毅 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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