MERSに揺れる韓国(上)セウォル号事故の教訓は生きたか

執筆者:平井久志 2015年6月29日
エリア: アジア

 韓国で5月20日に中東呼吸器症候群(MERS)の感染者が確認されて1カ月以上が経過した。6月29日午前6時現在、感染者は182人、その内、死者が32人となっている。隔離対象者は累計1万5000人を超えたが、29日現在は約2682人となっている。新たな感染者数が減り、MERS感染拡大もようやく峠を越えたようにみえるが、潜伏期間を10日以上超えて感染者が出たり、少数ながら感染経路の不明な患者がいたりするなど予断を許さない状況だ。
 最初に感染が確認されたのは68歳の男性で、4月18日から5月3日に掛けてサウジアラビアなど中東数カ国を訪問し、5月4日に韓国の仁川空港へ帰国した。この時は発熱などの症状はなかった。この男性は11日になり発熱し最初の病院で治療を受けた。男性は12日に別の病院へ入院し、18日には3番目の病院へ入院して20日に感染が確認され、4番目の病院へ移送された。同日にはこの男性の夫人が感染していることが確認され、21日には2番目の病院で男性と同じ病室にいた76歳の患者が3番目の感染者になった。
 最初は1人の感染者だったが、1カ月余りで180人以上が感染し32人が死亡する事態になり、韓国社会はMERSに揺れている。
 MERS拡大がなぜ起きたのか、MERSの拡大で、韓国社会で何が問題になっているのか――。その社会的シンドロームを検証してみたい。

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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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