MERSに揺れる韓国(下)サムソン後継者の謝罪

平井久志
執筆者:平井久志 2015年7月1日
カテゴリ: 国際 社会 医療 政治
エリア: 朝鮮半島

「最高の病院」が「最悪の病院」に

 保健福祉部の中央MERS管理対策本部はMERS発生1カ月目の6月19日に、その時点での感染者164人のうち半数の82人はサムスンソウル病院での感染者であると明らかにした。各病院の感染者数は、最初の感染現場となった平沢聖母病院が36人、大田大清病院が13人などと続いた。
 サムスンソウル病院は韓国では最高の病院といわれている。しかし、そのサムスンソウル病院がMERS感染拡大の最大の原因となっていた。国民の怒りも大きく、病床の李健熙(イ・ゴンヒ)会長から李在鎔(イ・ジェヨン)副会長へのオーナー継承を図ろうとしているサムスングループ全体に大きな打撃を与えている。
 サムスンソウル病院には、最初の感染者が出た平沢聖母病院で、この患者から感染した患者が5月27日に転院してきた。そして、この感染者がマスクもせず病院内を歩き回り感染を広げた。治療に当たった医師も感染したが、隔離されずに、勤務を続けた。また患者の搬送を担当する職員が、発熱の症状があったのに9日間、勤務を続けた。
 サムスンソウル病院では、6月7日に救急病棟に来た患者とその家族675人と病院関係者218人の計893人を、隔離または観察対象にした。しかし6月12日時点で、同病院で感染が確認された60人のうち25人はこの中に名前がなく、隔離・観察者リストのずさんさが浮き彫りになった。病院は「患者の2メートル以内の至近距離で接触した者」と、ごく狭い範疇を隔離・観察対象にしていたからだった。
 韓国政府はソウルや大田の病院に対して病院全体もしくは一部病棟の閉鎖や隔離を指示したが、サムスンソウル病院については自主判断に任せた。サムスンソウル病院の病院長は大韓感染学会の理事長も務めた感染病の専門家だったためか、政府の姿勢は及び腰だった。朝鮮日報(6月15日)社説は「国はサムスンソウル病院に対してはどういうわけか完全に治外法権のように放置した」と指摘した。
 サムスングループは2011年にグループの戦略企画室出身者を病院の社長に任命した。病院経営陣にはグループの経営専門家が送り込まれ、管理を強化し、効率性と収益を重視するサムスン式経営を病院に持ち込んだ。医師1人当たりの売上高と利益率を調べるようなことが行われたという。
 こうした経営姿勢からなのか、サムスンソウル病院は国家指定入院治療病床ではないという理由で、同病院には陰圧病室は1室もなかった。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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