テロリストの誕生(12)扇動者の責任

国末憲人
執筆者:国末憲人 2015年7月10日
エリア: ヨーロッパ 中東

 クアシ兄弟のうち、兄のサイードがシャンパーニュ地方ランスで、弟のシェリフがパリ郊外ジェンヌヴィリエで、それぞれ家庭を持っていたのは、すでに述べた通りである。この2人に対して、フランスの情報当局は電話の盗聴や尾行などによる監視を続けていた。イスラム過激派とのかかわりが明らかで、「イエメンで軍事訓練を受けた」との情報も米国からもたらされていたからだ。

 しかし、監視の結果浮上したのは、兄サイードが偽ブランド品の取引にかかわっている、との疑いだった。それだって立派な犯罪だが、盗聴までして騒ぐほどのことではない。調査報道での評価が高いフランスのインターネット情報サイト『メディアパルト』によると、既存のテロ組織や具体的なテロ計画との結びつきも確認できなかったとして、当局はクアシ兄弟への監視を昨年6月に打ち切った。すでにアメディ・クリバリはその前月、居どころを明らかにする発信器付きブレスレットを外されていた。後の連続テロの主役たちは、そろって自由の身になったのである。

 もちろん、フランスで危険なのは、この3人に限らない。シリアやイラクの戦場から戻ってきた筋金入りのテロ予備軍は数知れない。その意味で、一見おとなしそうな3人に割く手間と費用が、当時とすれば無駄に見えたのだろう。

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執筆者プロフィール
国末憲人
国末憲人 1963年生れ。85年大阪大学卒。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。富山、徳島、大阪、広島勤務を経て2001-04年パリ支局員。外報部次長の後、07-10年パリ支局長を務め、GLOBE副編集長、本紙論説委員のあと、現在はGLOBE編集長。著書に『自爆テロリストの正体』(新潮新書)、『サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領―』(新潮選書)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』(いずれも草思社)、『ポピュリズム化する世界』(ダイヤモンド社)、共著書に『テロリストの軌跡―モハメド・アタを追う―』(草思社)などがある。
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