テロリストの誕生(13)襲撃の朝

執筆者:国末憲人 2015年7月24日
タグ: フランス
エリア: ヨーロッパ 中東

 クアシ兄弟のうちフランス・シャンパーニュ地方ランスに住む兄サイード・クアシは、相変わらず定職を見つけられないでいた。移民家庭の出身であること、学歴にも技術にも乏しいこと、イスラム原理主義に固執した生活スタイルに加え、視力が弱いことも、就職の障害となっていた。することがなく、1日中ゲームで時間をつぶすこともあった。妻のスミヤ・ブアルファも持病を抱え、働きに出られなかった。しかし、一家が暮らす低所得者向けアパルトマンで、そのような境遇は特に珍しいわけでもなかった。

 1月7日、サイードはよく眠れぬまま朝を迎えた。興奮していたわけではない。前日の6日、一家そろって食中毒に見舞われたからだ。

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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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