よろめく「金正恩路線」(上)「肖像画」「バッジ」が消えた

平井久志
執筆者:平井久志 2015年7月28日
エリア: 朝鮮半島

 金正恩(キム・ジョンウン)政権の路線が揺れている。金正恩第1書記は今年元日に発表した「新年の辞」では金正日(キム・ジョンイル)総書記の「遺訓」などにはまったく言及しなかった。昨年12月の金正日総書記の死亡3周年で「3年服喪」を終え、今年から「独り立ち」路線に向かうことを示すものとみられた。
 しかし、金正恩政権は2月に入ると党政治局拡大会議(2月18日)や党中央軍事委員会拡大会議(2月23日に報じられたが開催日は不明)という党の重要会議を相次いで開催し、そこでは「金正日総書記の遺訓をわが党と革命の永遠なる指導指針ととらえ最後まで貫徹すること」(党政治局拡大会議)や「金正日同志の遺訓を貫徹するための今後の軍建設方向を明確に規定」(党中央軍事委員会拡大会議)が討議され、金正恩政権の基本路線を「遺訓貫徹」へ引き戻した。
 ところが、その後、金正恩政権の路線が再び「独り立ち」路線へと回帰し始めている。政権の基本路線の不安定さを示すものだ。

空港から消えた「金日成主席の肖像画」

 朝鮮中央通信は6月25日、金正恩第1書記が李雪主(リ・ソルジュ)夫人とともに、完成した平壌国際空港ターミナルを現地指導したと報じた。
 金正恩第1書記は専用機を使って上空から平壌空港周辺の整備までチェックする念の入れようだった。金正恩第1書記は将来、平壌空港と平壌市内を結ぶ高速鉄道や高速道路を新しく建設しなければならないと指摘した。
 この平壌空港の工事は金正恩第1書記の側近であった馬園春(マ・ウォンチュン)国防委員会設計局長が失脚するきっかけになったものだ。金正恩第1書記は昨年10月に平壌国際空港を視察した際に「主体性、民族性が生かされるように仕上げる課題を与えたが、そのようにできていない」と空港ターミナル建設の責任者であった馬園春設計局長を批判し、同氏はその後、失脚した。馬園春氏は現在、両江道で「革命化教育」を受けているとみられている。
 金正恩第1書記は平壌空港に「主体性、民族性が生かされるよう」馬園春氏に指示をしたというが、朝鮮中央通信が7月1日に配信した完成した平壌空港の写真では、従来は平壌空港にあった金日成(キム・イルソン)主席の大きな肖像画がなくなっていた。北朝鮮のイデオロギーからすれば北朝鮮の「主体性、民族性」を示すもっとも象徴的なものが「金日成主席の肖像画」ではないかと思うが、それが平壌空港から姿を消した。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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