日本は右傾化しているのか?

 米国で日米関係を議論していると、「日本は右傾化しているのか」とか、もっと踏み込んで「日本は軍国主義化(militarized)しているのか」というような質問をしばしば受ける。日本における「右」と「左」の区別は混沌としているので、そのあたりの議論は宇野重規氏が2年前に『フォーサイト』に執筆した論考(「日本において『保守とリベラル』『右と左』は何を意味するか」)を参照していただくとしても、「日本の右傾化」という問いは第2次安倍政権が発足して以来増しているように思われる。
 まず断っておかなくてはいけないのであるが、「日本の右傾化」という問いそのものにはあまり意味はない。日本右傾化の根拠は、「右寄りの安倍晋三氏が首相になったのであるから安倍氏を選んだ日本国民も右傾化しているに違いない」というものである。しかし、2012年衆議院選挙での自民党の勝利は、いうまでもなく、それまで政権を担っていた民主党への、とくにその経済政策に対する失望によるものであり、安倍氏の右寄りの政治的立場が支持されたからでは決してない。2014年の衆議院選挙でもその傾向は変わらなかったといってよい。
 しかしながら、「右と左」の話は現在国会で審議されている安保法制をめぐる議論でも話題になっているので、前回の論考「安保法制議論の『迷走』を米国から見る」で指摘したように国会審議で安全保障問題がまともに議論されていないという現実を踏まえて、安保法制が日本の安全保障に抜本的な変革をもたらすものなのかという点を、本稿では考えてみたい。

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執筆者プロフィール
武内宏樹(たけうちひろき) サザンメソジスト大学(SMU)政治学部准教授、同大学タワーセンター政治学研究所サン・アンド・スター日本・東アジアプログラム部長。1973年生れ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)博士課程修了、博士(政治学)。UCLA 政治学部講師、スタンフォード大学公共政策プログラム講師を経て、2008年よりSMUアシスタント・プロフェッサーを務め、2014年より現職。著書に『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(共編著、慶應義塾大学出版会、2012年)、Tax Reform in Rural China: Revenue, Resistance, Authoritarian Rule (ケンブリッジ大学出版会、2014年)。ほかに、International Relations of the Asia-Pacific、Japanese Journal of Political Science、Journal of Chinese Political Science、Journal of Contemporary China、Journal of East Asian Studies、Modern Chinaなどに英語論文を掲載。専門は、中国政治、日本政治、東アジアの国際関係及び政治経済学。
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