「天安門城楼」の外交戦(下)北朝鮮の孤立と「人工衛星」

平井久志
執筆者:平井久志 2015年9月11日

 中国は朴槿恵(パク・クネ)大統領に最大級の厚遇をしたが、これと対照的だったのが北朝鮮の崔龍海(チェ・リョンヘ)党書記だ。崔龍海党書記は努光鉄(ノ・グァンチョル)人民武力部第1副部長や李(リ)ギルソン外務省次官を同行して瀋陽経由で9月2日、北京入りした。
 中国は、崔龍海党書記を30人の最高指導者級来賓の1人として分類した。崔龍海党書記の父親は金日成(キム・イルソン)主席とともに旧満州で中国共産党傘下の東北抗日連軍で抗日パルチザン闘争を展開した崔賢(チェ・ヒョン)元人民武力部長だ。
崔龍海党書記は2013年5月に金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の特使として訪中し、習近平主席と会見し、金正恩第1書記の親書を伝えた。北朝鮮はそれまでは、朝鮮戦争の休戦協定の白紙化などを宣言し、極度の挑発路線を走ったが、この崔龍海特使の訪中を機に、挑発路線を沈静化させていった。
 中国は中朝関係を考慮、さらに習近平主席は2013年に会見に応じているだけに、崔龍海党書記に対しても首脳レベルの処遇をするのではないかと見られたが、結果はそうではなかった。

式典当日帰国した崔龍海

 崔龍海党書記は9月3日、父が所属した東北抗日連軍のパレードを参観したわけだが、金日成主席のように城楼の中央ではなく、城楼の一番右端に立っていた。崔龍海党書記が首脳ではないまでも、これまでの中朝関係を考えれば、やはり冷遇だ。
 さらに、習近平主席との個別の会談もなかったもようだ。中国外務省報道官は9月7日の会見で、習近平国家主席が崔龍海党書記と会談したかどうかについて質問を受けたが明確な回答を避けた。崔龍海党書記は軍事パレード参観が終わると、その日のうちに帰国してしまった。 
 これは、「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70周年」という国を挙げての中国の重要行事を前に、北朝鮮が朴槿恵大統領の訪中さえ一時は困難ではないかと思わせるような緊張を作り出したことへの怒りの表明であろう。中国は金正恩第1書記をこの式典に招待したように、基本的には北朝鮮との関係修復を試みたが、式典直前の北朝鮮の緊張激化に苛立っての対応とみられる。
 それでも、李進軍・駐平壌中国大使は9月3日、平壌で開いた70周年記念レセプションで、崔龍海党書記が中国の記念行事に参加したことについて「金正恩第1書記が中朝の伝統的友好関係を重視していることを示すものだ。中国は両国関係を引き続き安定的に発展させていく」と評価した。現地の大使としては精一杯の評価だ。北朝鮮側は朴春男(パク・チュンナム)文化相や孫光浩(ソン・グァンホ)体育省次官や外務省、人民武力部などの幹部多数が出席したという。
 中朝関係は今後、どう推移するのか。最近の流れを検証してみよう。

この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
comment:1
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順