テロリストの誕生(21)消えた女と男たち

国末憲人
執筆者:国末憲人 2015年9月18日
エリア: ヨーロッパ 中東

 話は、2015年の元旦にさかのぼる。パリからスペインの首都マドリードに向けて、アルジェリア系移民2世のフランス人兄弟モアメド・ベルシヌ(27)、メディ=サブリ・ベルシヌ(23)が相次いで移動した。その数日後にユダヤ教徒向けスーパー「イペール・カシェール」立てこもり事件を起こすことになるアメディ・クリバリと密接な関係を結んでいた男たちである。

 最初に動いたのは弟メディ=サブリだった。元旦の1日、彼はパリ郊外に暮らす両親に暇乞いをした後、パリ・マドリード間の高速バスに乗った。「イスラム教を勉強するため、エジプトにしばらく滞在する」というのが理由だった。両親も、末弟も、その言葉を信じていた。

 メディ=サブリが出立して数時間後、長兄のモアメド・ベルシヌが、両親の元に立ち寄った。「新年の挨拶」が口実だった。実家を辞去したモアメドは、妻イメーヌと4歳の子どもを連れ、やはり高速バスでマドリードに向かった。

 もちろん、マドリードが最終目的地ではない。パリから出国すると怪しまれることから、ここを中継地点に使ったと思われる。翌2日、クリバリの運転するレンタカーでパリからやってきたその妻アヤト・ブメディエンヌが兄弟に合流した。マドリード・バラハス国際空港の監視カメラには、クリバリとブメディエンヌが手をつないで急ぐ姿が記録されている。夫婦にとっては、この空港が永遠の別れの場となった。

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執筆者プロフィール
国末憲人
国末憲人 1963年生れ。85年大阪大学卒。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。富山、徳島、大阪、広島勤務を経て2001-04年パリ支局員。外報部次長の後、07-10年パリ支局長を務め、GLOBE副編集長、本紙論説委員のあと、現在はGLOBE編集長。著書に『自爆テロリストの正体』(新潮新書)、『サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領―』(新潮選書)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』(いずれも草思社)、『ポピュリズム化する世界』(ダイヤモンド社)、共著書に『テロリストの軌跡―モハメド・アタを追う―』(草思社)などがある。
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