インテリジェンス・ナウ
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「ロシア・イラン共同作戦」だったシリア空爆:「米ロ代理戦争」の色彩

春名幹男
執筆者:春名幹男 2015年10月21日
エリア: 北米 ロシア 中東

 ロシア軍のシリア内戦介入はあまりにも突然だった。
 国連総会開会中の9月28日、米ロ首脳はニューヨークで15カ月ぶりに首脳会談を行った。記者団が取材を終えて、翌29日ワシントンに戻る機上で、アーネスト大統領報道官は恐ろしく前向きの評価をした。
「オバマ大統領はプーチン大統領と建設的な会談を行った。シリアは政治的転換が必要とのプーチン大統領の指摘を米国は歓迎した。意見の違いはあるが、正しい方向への動きだ」
 翌日、ロシア空軍機は、プーチン大統領の予告なしに、シリアの反政府勢力の攻撃目標を空爆した。昨年の「クリミア」の時と同様、米国はまたロシアに出し抜かれたのである。
 このため米上下両院情報特別委員会は、米情報機関がロシア軍の攻撃の前兆を見逃していた、として調査することになった。
 実際、ロシアとイランは年初来、情報活動でも、軍事面でも、外交面でも、ロシアのシリア内戦介入に向けて、慌ただしい動きを続けていたのだ。

作・演出はイランのソレイマニ司令官

 ロシア軍の介入は、実はロシアとイランの共同作戦だった。作戦は2015年初め以降、両国間の戦略的対話を経て、緊密かつ周到に準備が進められたようだ。
 西側メディアは、数カ月前のラブロフ・ロシア外相とイラン最高指導者ハメネイ師の会談でロシア軍介入が決まったと伝えている。しかし、ロシア外務省はそんな会談はなかったと否定しており、確認は不可能だ。
 いや、両国はもっと重層的に戦略的関係を強化した上で、シリアでの共同作戦に至った、とみるべきだ。
 1月20日テヘラン、4月16日モスクワで会談したショイグ・ロシア国防相とデフガン・イラン国防軍需相。両者は軍事協力の強化をうたう文書に署名。ロシア製の高性能地対空ミサイルシステムS300のイラン向け輸出や軍艦の相互寄港の拡大で一致し、軍幹部の交流活発化、演習へのオブザーバー参加、人材育成、テロ対策など協力推進で合意した。1月28日には、ベラヤチ元イラン外相がプーチン大統領と会談した。ベラヤチ氏は「ロウハニ大統領の特使」としての訪ロだったが、彼はハメネイ師の外交顧問でもあり、ハメネイ師からの指示もあったとみられる。
 かくして、ハメネイ師はロシアのシリア内戦介入に参画することを決定、直属の部下である革命防衛隊「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官に、ロシアを訪問して具体的な作戦計画を立案するよう指示したとみられている。
 イラン秘密工作の「英雄」として知られる同司令官がモスクワを訪問したのは7月24日から3日間といわれる。地図や偵察写真を持ち込んで、プーチン大統領やショイグ国防相とも会談、作戦の詳細を詰めた、とロイター通信などは伝えている。同司令官に対して、米国だけでなく国連も「渡航禁止」の制裁を科しており、ロシアはこうした事実の確認を拒否している。
 それ以後、準備は着々と進んだ。9月9日、イランはロシア航空機の上空通過を許可。同26日には、ロシア、イラン、イラク、シリアが情報を共有する「合同情報センター」の設置で合意した。「ロシアから数千人のテロリストが『イスラム国(IS)』側に参戦していることをロシアは憂慮している」とイラク軍統合作戦司令部は説明したが、現実には反アサド政権勢力の動向が最重要情報とみられる。

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執筆者プロフィール
春名幹男
春名幹男 1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。
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